5.2 インターネット

1.インターネットとは?

インターネットには様々な定義がありますが,ここでは,「インターネットとは世界的規模を持ったデジタルコミュニケーションの基盤である」と定義することにします.わかりやすく言えば,インターネットは,私たちがデジタル情報を世界的規模で自由に伝達,交換,共有することができるための仕組みです.コンピュータは,文字,画像,音声などの様々な情報をデジタル化(=数値化.詳しくは,カリキュラム後半で扱う予定)することによって,それら様々な種類の情報を「デジタル情報」として一元化して扱うことが可能です(コンピュータの内部では,メールに書かれた文字も,WEBページに貼られた画像も,スピーカから流れる音も,全て数値として表され,処理されます).ネットワークという考え方は,このようにデジタル化された様々な情報を伝達,共有,交換するための仕組みであると言えます.インターネットは,「ネットワークのネットワーク」と言われるように,世界中のコンピュータネットワーク(CNSもその一つです)が相互に結びついた大規模なネットワークであると言うことができます.インターネットという仕組みを介して,様々なデジタル情報が世界中の人々の間で伝達,交換,共有されているのです.

インターネットはデジタルコミュニケーションの基盤であると述べました.では,具体的にどのような形のデジタルコミュニケーションがインターネット上で行われているかというと,例えば,WWW(World Wide Web)や電子メールなどが挙げられます.本授業で実際に皆さんが制作する「WEBページ」は,文字だけでなく画像や音声,動画などを扱うことのできる「マルチメディア」として,インターネットの普及にも大きく貢献しています.

internet
出典:2001年度春学期インターネット概論(村井純、橘雅彦)

2.インターネットの理念

インターネットが世界的規模のデジタルコミュニケーションネットワークとして機能するための,インターネットを支える幾つかの理念とも言えるものがあります.ここでは,インターネットを支える理念として以下の3つについて説明をします.

2−1 標準化

インターネットという仕組みがつくられる以前は,それぞれの組織(企業,大学など)内のみで機能するコンピュータネットワーク(Local Area Network,略してLANといいます)が一般的でした.しかし,これでは企業間,大学間など,ネットワーク間での通信を実現することができません.そこで,異なるネットワーク間で通信を行うことのできる仕組みが望まれました.具体的には,それぞれのネットワークを相互に接続するのですが,このようにして世界中のネットワークを接続した言わばネットワークの集合体が,「ネットワークのネットワーク」と呼ばれるインターネットです.

ところが,それぞれのネットワーク(LAN)内では,それぞれのネットワーク内でしか通用しない独自のルールに従って,デジタル情報のやり取りが行われていました.そのために,異なるネットワーク同士を接続しても,通信のルールが異なるために情報伝達を行うことができません.これは,「日本語」というルールに従って情報の伝達を行う日本人が,言語の異なるアメリカ人と会話しようとする状況と似ています.コンピュータ同士の通信においても,通信における共通のルールをあらかじめ決めておかなければ,相手側に送ったデータを受け取ってもらうことができません.このルールのことを「プロトコル (Protocol)」といい,具体的には通信相手のコンピュータの場所をどう表現するか,データをどのように転送するか,などを定義しています.

さて,ネットワーク間に通信の互換性がないという問題を解決するために,ネットワークごとに異なるプロトコルを標準化しようとする動きが現れました.現在では,「TCP/IP」と呼ばれる共通プロトコルによって,インターネット上の通信は成り立っています.この共通プロトコルは,ユーザの意見を柔軟に反映しつつ発展してきたもので,プロトコルの標準化によってインターネットはここまで普及したと言っても過言ではありません.プロトコル以外にも,インターネットの世界では様々な標準化が行われており,非常に重要な理念であると言えます.

2−2 ベストエフォート

ベストエフォート(最善努力)とは,インターネットが持つ極めて特徴的な考え方です.インターネットは,基本的に「完全なコミュニケーション」ではなく,「不完全なコミュニケーション」の基盤を提供することをその目的としています.インターネットのような世界的規模の大ネットワークを構築しようとした時,「完全なコミュニケーションの実現(=完全な通信の実現)」といった高度な要求をすることは現実的ではありません.不完全なコミュニケーションとは,情報の伝達においてできる限りの努力はするが,結果は保証しないという,まさに「ベストエフォート」という考え方によって支えられています.このようなコンセプトがあるからこそ,インターネットの技術的な要求はきわめて低くとどまり,インターネットが誰にでも使うことのできるコミュニケーションの基盤として,急速に普及することができたと言えます.

2−3 自律分散性

自律分散性とは,インターネットは相互に自律したネットワークの集合であり,その全体を管理したり制御したりする仕組みがなくてもインターネットは機能する,ということを意味しています.インターネットのように,世界中を網羅するようなコミュニケーションの基盤をつくろうとする時,世界中のコンピュータを一元管理するような統一的,中央集権的な仕組みは現実的ではありません.そのような仕組みは,インターネットの規模という点からもまず不可能ですし,仮にインターネット全体を制御,管理する仕組みができたとしても,管理を担う中心機能が何らかの被害にあえばインターネット全体の機能が停止してしまうことも考えられます.  自律分散性のコンセプトによって構築されたインターネットがコミュニケーションの基盤として優れている点として,大規模で広域に発展していくことができるということが挙げられます.インターネットに接続する端末の数が増えたり,扱う情報の量が増えても,それに合わせてそれを担う力が増えるのが,自律分散性の原理であるからです.

3. TCP/IP

インターネットにおいて標準プロトコルとして採用されているTCP/IPについてもう少し詳しく見てみましょう.TCP/IPは,TCP,IPというプロトコルに限らず,インターネットにおける通信に関わる様々なプロトコルを含めた広い意味で使われます.ここでは,TCPとIPの2つについて簡単に紹介します.

・IP(Internet Protocol)

IPの役割としては,大きく分けて(1)Addressing(宛先指定)(2)ルーティング(指定された宛先へのルート決定)(3)ICMP(障害等の情報通知や診断)などがあり,ベストエフォートの理念に基づいてネットワーク通信を実現しています.つまり,IPは送信した情報(データ)が目的のコンピュータに届くことを保証していません.このような意味で,IPは「信頼性のない」プロトコルであるといわれます(通信の信頼性を確立するためのプロトコルが次に説明するTCPです).また,通信の仕組みを実現するために,送受信されるデータにはIPヘッダと呼ばれる情報が付加されます.ここには送り先のIPアドレスを始め,様々な情報が書かれています(図参照).

IPheader
出典:2000年度秋学期情報処理Is(村井純)

・TCP(Transmission Controll Protocol)

TCPの役割は,IPが提供する通信に信頼性を与えることです.データが確実に相手に届くように,送信側と受信側の各コンピュータでは盛んにやりとりが行われます.送信されたデータが受信側コンピュータに届くと,受信側コンピュータは受信したということを送信元コンピュータに知らせる為に,応答メッセージをわざわざ送ります.送信元コンピュータはこの応答メッセージを待っているのですが,もし応答がないと,データが相手に届かなかったとみなしてデータを再送するのです.このような仕組みを実現するためのプロトコルがTCPです.このような仕組みを実現するために,送受信するデータ(パケットと呼ばれるこまぎれ単位で送受信されます)のそれぞれに「TCPヘッダ」という付加情報をつけます.このヘッダには送受信先の情報や,無事にデータが届くための情報,応答メッセージなどが書かれているため,コンピュータはこれを付加したり読んだりすることで,お互いにやりとりができるのです.長いメッセージのメールを送る場合などは,それを複数のパケットに分割し,それぞれに連番を割り振って送信します.この場合,データが正常に届かなかったときは,送信元は応答のなかった連番のデータだけを送ればよいので,効率がいいのです(まるごと送信し直さなくてもよいということです).また,ここではデータを確実に届けるための仕組みを定義しているのであって,実際に誰に送るのかということはIPに任せます.