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4、Cluster Navigation System (分析編1)

ビジネスドメイン分析

ビジネスドメインとは、本システムが稼動する世界のことである。ビジネスドメインについて分析することの目的は以下の3つである。

ここでのビジネスドメイン分析のアプローチは、現実世界における問題点を洗い出し、現実のシステムでネックになっている部分を見つけ出すことである。この後の段階で、このネックとなっている部分にシステムをあてがい、その境界について分析することによりシステムの要求仕様を導き出す。以下ではCNが適用される世界、すなわち学生の履修計画を取り巻く現状について分析する。なお以下の記述は、5人のプロジェクトメンバーがそれぞれのユーザエクスピリエンス共有し、KJ法を用いて試行錯誤を行った結果である。

なお新カリキュラムの内容に対する理解はビジネスドメイン分析を行う上で非常に重要であるが、それについて詳細に記述することは本文書の範疇でないので割愛した。

SFCのカリキュラムの大幅な改正

昨年行われたSFCの大幅なカリキュラム改正は、これまでの「浅く広く」という教育方針に方向性の要素を強めようとしたものであった。これまでのSFCのカリキュラムは学生の自主性を尊重する形で、選択肢の広さ、目指せる方向性の多様さを強調し続けていたが、いまだ履修計画立案の方法論が確立していないSFCでは、育つ学生と育たない学生に大きく割れるという結果になってしまった。新カリキュラムではその解決策として、これまで将来への方向性という意味で明確な秩序をもたなかった科目間の関係に、クラスターという方向性を持たせた、「クラスター制度」を導入した。

しかし新カリキュラムを作っただけでは学生に変化はない。新カリキュラムの本質を学生に理解させ、それを基にして学生が履修計画を立案して遂行することのできる環境を整備しなければ、結局新カリキュラムは形骸化してしまう。このような環境を構築するために最も必要なものは、よく整備されたカリキュラム情報と過去の履修計画例の蓄積であり、どちらも現状のSFCは満足できていない。

SFCにおける履修計画

現状のSFCにおいて、いわゆる履修計画における方法論的なものは未だ存在しない。その理由として、SFCは他の日本の大学にくらべてカリキュラム形態が大幅に異なるため、学部ごとの専門分野について突き詰めていくような一般的な大学のカリキュラム形態が通用しないことが挙げられる。かといって欧米の大学に近いかというとそうでもなく、結局のところSFC独自の履修計画方法論が必要なのである。

SFC生の履修計画の現状

現在のSFC生の履修計画でもっとも明らかなことは、効果的な学習計画を追及することに対する重要性があまり認識されていないということである。大半の学生が、履修計画をその場しのぎのものとして捕らえているのというのが現状ではないだろうか。仮にそうでないとしても、大学生活の4年間を通じての学習計画の構想を持ちながら履修計画を立案している人はごくまれであろう。確かに自分の目指すべき道というものは移ろいやすいもので、4年間の学習計画を立てて全てをそれどおりに実行することはほぼ不可能に等しい。しかし、その時々に持っている自分の将来の方向性というものに常に目を向け、そこに向かうための最短ルートを探るという意味での履修計画は非常に有意義である。そのような履修計画が、効率の良い学習につながり、その学生の成長に大きく影響することになるのだ。

SFCらしさを求めたゆえに生まれる二面性

SFCでは履修における自由度が非常に高い。科目の種類は多岐に渡り、それらがカバーする範囲もまた広い。これは浅く広くというビジョン重視のSFCらしさということができるが、学生は自分の方向性を決められるのは自分だけという多大なリスクを背負うことになる。特に自分の方向性の決定を大学に期待する学生は、SFCの方針に沿うか、それとも自分の専門性を突き詰めるかという葛藤に悩まされる。このようにSFCにおいて自分の方向性を定めるということは一筋縄ではいかない問題であり、そこには何かしらの支援が必要不可欠である。

浸透しないカリキュラム1 -不足している情報-

情報の不足は、学生の履修計画立案を妨げる原因となる。SFCにおいて、学生は一般的にSFCガイドやホームページからカリキュラムや履修に関する情報を得る。そこにはクラスター制度に関する情報や科目に関する情報は一応掲載されているにしても、学生が履修計画を立てるには十分でない。例えば、ある科目についての他の学生の評価や、履修計画の参考例などといった履修計画を立てる際に重要となるような情報は圧倒的に不足している。

浸透しないカリキュラム2 -情報の場所、質の問題-

情報の場所についても問題がある。SFCの現状では、カリキュラムや授業に関する情報はSFCガイド、ホームページ、シラバスなどから入手するわけだが、それらの中で情報が交錯したり食い違ってる場合がしばしば発生し、学生にしてみればどの情報を信じてよいのか分からず混乱を招く。また文書ベースの情報が多い上に聞きなれないカリキュラム用語など、言葉の定義が不十分で理解しづらい。特に今回のカリキュラム改正で強調されている、それぞれのクラスター内での科目同士の関連に関する情報など、文字情報だけでなく視覚的にも分かりやすく理解させるような仕組みが必要である。

この状況を打開するためには、カリキュラム情報に関するユニークな情報の引き出し口の整備が必要不可欠であり、情報の質および情報の鮮度を保つ仕組みの整備も急務である。また情報の蓄積の仕組みがきちんと整備されておらず、固定的な情報以外の、過去の履修計画や授業評価などといった学生や教員の生み出した知識を効率的に蓄積する仕組みが不十分であり、せっかく生み出された知識が無駄になっている。

浸透しないカリキュラム3 -情報取得手段の不足-

現状では、履修申告前の情報収集の手段も確立されていない。口コミ、シラバス、事務室の掲示板、SFCガイドなど情報が散乱しているばかりか一貫性に欠けることも多い。学生の履修計画立案を支援するにはカリキュラムに関する情報だけでなく、履修計画立案時におけるカリキュラム情報の使い方に関する情報も必要である。現状では、学生の履修計画を支援するような仕組みは学生カウンセリングくらいしか存在しない。

要求仕様

以上の分析から、我々は以下のような要求仕様を作成した。ここではその詳細について説明する。

  1. 学習計画を立てる際に役立つ情報を提供する
  2. 情報をただ提供するだけでなく、その利用方法も提供する
  3. 履修に際しての制約情報を提供する
  4. 情報を得る窓口であるインターフェースを整備する
  5. 情報を積極的に配信する
  6. 履修に関わる他のシステムと連携する
  7. システムの管理・運営の仕組みを整備する

学習計画を立てる際に役立つ情報を提供する

学習計画を立てる際に必要となってくる情報には以下のようなものがある。

現在履修中の授業情報
学生は現在履修中の授業のあらゆるリソース(教科書、シラバス、レジュメ等)にアクセスできるべきであり、そのためには教員やSA/TAが授業に関するあらゆる情報を掲載できるような仕組みを用意する必要がある。さらに、学生がそれぞれの授業の担当者に直接質問や意見を言うことのできる仕組みがあると便利である。
授業評価
 システムを通して、学生が授業に対する評価やコメントを閲覧することができたり、過去の授業の様子を知ることのできる仕組みが必要である。 具体的には、教員やTA/SAと授業に関する密接なやりとりができ、受講していない学生もそれを閲覧できるような仕組みが必要である。また、実際に履修してきた学生の授業にたいするコメントを見ることができると便利である。その際、自分が過去にとったことのある授業の評価を投稿すると同時に、その学生のとった成績も入力するような仕組みを用意しておくと、現実味が沸いて非常に参考になる。過去の授業の様子については、その授業風景の動画を配信できるような仕組みがあると便利である。
事務系の情報
 システムを通して、学生は授業に関するあらゆる事務的な情報(休講情報、教室変更、時間割変更等)にアクセスできる必要がある。また授業以外で学校生活を営む上で必要な情報(奨学金情報、留学情報等)にも同様にアクセスできるべきである。要するに、α館の掲示板にある情報がすべて履修計画支援システム経由で手に入るような仕組みが必要である。
カリキュラム(クラスター制度)に関する情報
学生にカリキュラムについてを分かりやすく解説する仕組みが必要である。具体的には、各クラスターに含まれる授業同士の関連を分かりやすく表した図や、各クラスターを卒業した後の成果および進路を一覧できる仕組みが必要である。また、自分がどのクラスターに所属するべきかを、自分の興味や希望の進路などから検索できる仕組みがあると便利である。

情報をただ提供するするだけでなく、その利用手段も提供する

 学習計画、カリキュラム、時間割の制約、そしてこれまでに履修してきた授業に関する情報を組み合わせれば、その学期に履修すべき授業は簡単かつ確実に決まるはずである。これを行うには、以下に挙げる3つの履修計画のアプローチをサポートする必要がある。

人とのコラボレーションによって履修計画を考える
 他の学生の授業のフィードバック(評価やランキング)や、指導者のアドバイスを参考にして履修計画を考えることができるような仕組みが必要である。 具体的には、履修計画について話し合う場としての掲示板や、履修計画のランキングをサポートする。また指導者の立場から考えた、お勧め履修計画を知ることができるような仕組みと場所を用意する。さらにシステムを通して、いつでも履修計画のカウンセリングを受けられるような仕組みがあると便利である。
進路や興味に基づいた情報から履修計画を考える
 自分の方向性を絞り込みたい学生、あるいは逆に広げたい学生の両方に対して柔軟に対処できる必要がある。また、途中で学習計画を変更したくなった学生に対しても適切な支援が行えるような仕組みが必要である。 そのためには、学生が自分の置かれている環境の制約(後述)の中で、自分の興味や方向性をきちんと管理できるような仕組みが必要であるし、それを十分に生かすことのできる仕組みもまた必要である。 具体的には、自分が興味のある教科を一覧表示する仕組みや、その中で自分が履修可能な教科を識別できるような仕組みが必要である。また、目指す進路から考える学習計画と、興味のある授業から考える学習計画の両方をサポートするべきである。さらに、研究会に入るタイミングや選び方、研究会の変更についてのアドバイスを提供できると良い。
履修例を参考に履修計画を考える
 既に卒業したか、あるいは既に進路の決定した先輩方の履修例を参考にできるような仕組みがあると便利である。実体験からの履修計画は現実味に溢れ、説得力があるからである。その履修例をカリキュラムと結びつけ、それぞれのクラスター卒業後の進路例を一覧できると便利である。また友達の履修を見ることができる仕組みがあると便利である。友達の履修計画も、学生が履修計画を立てる上で重要な要素となるからである。

履修に際しての制約情報を提供する

 履修の制約は、学習計画に絶大な影響を及ぼす。むしろ学生は与えられた制約の中で、自分なりの学習計画を考え、履修計画を立案する。制約には以下に挙げる3つが存在し、それらを確実にサポートする必要がある。

時間割の制約
 現在の時間割の問題点として、その決定が遅すぎることが挙げられる。時間割が配られてからたった一週間の間で満足のいく履修計画を完成させるというのは至難の業である。 理想としては、4年間すべての時間割を一挙に公開することである。早い時期に配られれば、自分の履修計画のフィードバックが容易であるし、学習計画に基づいた履修計画の見通しも立ちやすい。ただこれが非現実的であれば、少なくとも新学期が始まる前には時間割が学生に配布されるべきである。
置かれた環境の制約
学習計画は、本人のポリシー+カリキュラム制度+学生を取り巻く環境である。学生ひとりひとりについて彼らの置かれている環境の制約を総合的にサポートし、簡単に学習計画に落とせるような仕組みが必要である。
単位の制約
 履修計画の最も重要な制約は、取得単位数である。履修計画支援システムでは、この単位取得について、ビジュアライズされたわかりやすい情報を提供する。特に卒業までにあと何単位必要かをチェックできる仕組みが求められる。

情報を得る窓口であるインターフェースを整備する

 履修計画を立てる上で必要な情報は膨大である。よってこれらの情報の中で、必要な情報に素早く効率的にアクセスできるための良いインターフェースが必要である。特に、情報を得るというアプローチに様々なビューをもうけ、多角的な情報の検索を可能にするべきである。また情報それ自体もよく整理され、理解しやすく配慮されたものでなければならない。さらにビジュアル的に、学生が使いたくなるような洗練されたインタフェースを備えている必要がある。また、教員など情報を入力する者に対しても同じように、分かりやすく良く整理された入力フォーマットを用意しなければならない。

情報を積極的に配信する

 履修計画支援システムでは、その利用者に向けて積極的に情報を配信するべきである。 学生に向けて履修科目に関する情報を掲載したメールマガジンが定期的に送付されたり、履修科目の情報に更新があった場合はその内容がリアルタイムにメールで告知されるような仕組みが必要である。

履修に関わる他のシステムと連携する

 履修申告システム、SA/TA登録システム、体育予約システムなど、履修に直結するあらゆるシステムと連携し、履修計画実行の段階においても学生をサポートするべきである。

システム管理・運営の仕組みを整備する

履修計画を支援する情報とは移り変わりの激しいものである。従ってシステムには、掲載する情報の鮮度を保ち、クオリティーを確保するための情報管理の仕組みが要求される。またその情報を学生に無駄なく使ってもらうために、ユーザー補助の仕組みを整備する必要がある。

システムに情報を提供する側向けの仕組みを整備する
履修計画支援システムには、先生に必要な情報を漏れなく期限内に提供してもらうためのフォーマットおよび仕組みが整備されている必要がある。 13回ある授業がどのようにして進められるのかに関する具体的な情報(内容、授業形態、仕様教室等)、人数制限のある授業では選考の理由と基準といった情報は、学生が履修計画を立てる上で必須であり、なるべく早く知りたいものである。
システムのクオリティを保つ
 情報のクオリティを保つため、システムの実効性を常に確認し、改善していけるような仕組みが必要である。すなわち、学習計画の立て方をより細かく分析するために、学生の過去の学習計画とその効果を統計にする仕組みが必要である。
ユーザー補助のための仕組みを整備する
利用者に安心して使ってもらうために、システムの使用法をわかりやすく説明する、マニュアル的な仕組みが必要である。また複雑な機能に関しては逐次ウィザードなどを整備しておく必要がある。