ビジネスドメインとは、本システムが稼動する世界のことである。ビジネスドメインについて分析することの目的は以下の3つである。
ここでのビジネスドメイン分析のアプローチは、現実世界における問題点を洗い出し、現実のシステムでネックになっている部分を見つけ出すことである。この後の段階で、このネックとなっている部分にシステムをあてがい、その境界について分析することによりシステムの要求仕様を導き出す。以下ではCNが適用される世界、すなわち学生の履修計画を取り巻く現状について分析する。なお以下の記述は、5人のプロジェクトメンバーがそれぞれのユーザエクスピリエンス共有し、KJ法を用いて試行錯誤を行った結果である。
なお新カリキュラムの内容に対する理解はビジネスドメイン分析を行う上で非常に重要であるが、それについて詳細に記述することは本文書の範疇でないので割愛した。
昨年行われたSFCの大幅なカリキュラム改正は、これまでの「浅く広く」という教育方針に方向性の要素を強めようとしたものであった。これまでのSFCのカリキュラムは学生の自主性を尊重する形で、選択肢の広さ、目指せる方向性の多様さを強調し続けていたが、いまだ履修計画立案の方法論が確立していないSFCでは、育つ学生と育たない学生に大きく割れるという結果になってしまった。新カリキュラムではその解決策として、これまで将来への方向性という意味で明確な秩序をもたなかった科目間の関係に、クラスターという方向性を持たせた、「クラスター制度」を導入した。
しかし新カリキュラムを作っただけでは学生に変化はない。新カリキュラムの本質を学生に理解させ、それを基にして学生が履修計画を立案して遂行することのできる環境を整備しなければ、結局新カリキュラムは形骸化してしまう。このような環境を構築するために最も必要なものは、よく整備されたカリキュラム情報と過去の履修計画例の蓄積であり、どちらも現状のSFCは満足できていない。
現状のSFCにおいて、いわゆる履修計画における方法論的なものは未だ存在しない。その理由として、SFCは他の日本の大学にくらべてカリキュラム形態が大幅に異なるため、学部ごとの専門分野について突き詰めていくような一般的な大学のカリキュラム形態が通用しないことが挙げられる。かといって欧米の大学に近いかというとそうでもなく、結局のところSFC独自の履修計画方法論が必要なのである。
現在のSFC生の履修計画でもっとも明らかなことは、効果的な学習計画を追及することに対する重要性があまり認識されていないということである。大半の学生が、履修計画をその場しのぎのものとして捕らえているのというのが現状ではないだろうか。仮にそうでないとしても、大学生活の4年間を通じての学習計画の構想を持ちながら履修計画を立案している人はごくまれであろう。確かに自分の目指すべき道というものは移ろいやすいもので、4年間の学習計画を立てて全てをそれどおりに実行することはほぼ不可能に等しい。しかし、その時々に持っている自分の将来の方向性というものに常に目を向け、そこに向かうための最短ルートを探るという意味での履修計画は非常に有意義である。そのような履修計画が、効率の良い学習につながり、その学生の成長に大きく影響することになるのだ。
SFCでは履修における自由度が非常に高い。科目の種類は多岐に渡り、それらがカバーする範囲もまた広い。これは浅く広くというビジョン重視のSFCらしさということができるが、学生は自分の方向性を決められるのは自分だけという多大なリスクを背負うことになる。特に自分の方向性の決定を大学に期待する学生は、SFCの方針に沿うか、それとも自分の専門性を突き詰めるかという葛藤に悩まされる。このようにSFCにおいて自分の方向性を定めるということは一筋縄ではいかない問題であり、そこには何かしらの支援が必要不可欠である。
情報の不足は、学生の履修計画立案を妨げる原因となる。SFCにおいて、学生は一般的にSFCガイドやホームページからカリキュラムや履修に関する情報を得る。そこにはクラスター制度に関する情報や科目に関する情報は一応掲載されているにしても、学生が履修計画を立てるには十分でない。例えば、ある科目についての他の学生の評価や、履修計画の参考例などといった履修計画を立てる際に重要となるような情報は圧倒的に不足している。
情報の場所についても問題がある。SFCの現状では、カリキュラムや授業に関する情報はSFCガイド、ホームページ、シラバスなどから入手するわけだが、それらの中で情報が交錯したり食い違ってる場合がしばしば発生し、学生にしてみればどの情報を信じてよいのか分からず混乱を招く。また文書ベースの情報が多い上に聞きなれないカリキュラム用語など、言葉の定義が不十分で理解しづらい。特に今回のカリキュラム改正で強調されている、それぞれのクラスター内での科目同士の関連に関する情報など、文字情報だけでなく視覚的にも分かりやすく理解させるような仕組みが必要である。
この状況を打開するためには、カリキュラム情報に関するユニークな情報の引き出し口の整備が必要不可欠であり、情報の質および情報の鮮度を保つ仕組みの整備も急務である。また情報の蓄積の仕組みがきちんと整備されておらず、固定的な情報以外の、過去の履修計画や授業評価などといった学生や教員の生み出した知識を効率的に蓄積する仕組みが不十分であり、せっかく生み出された知識が無駄になっている。
現状では、履修申告前の情報収集の手段も確立されていない。口コミ、シラバス、事務室の掲示板、SFCガイドなど情報が散乱しているばかりか一貫性に欠けることも多い。学生の履修計画立案を支援するにはカリキュラムに関する情報だけでなく、履修計画立案時におけるカリキュラム情報の使い方に関する情報も必要である。現状では、学生の履修計画を支援するような仕組みは学生カウンセリングくらいしか存在しない。
以上の分析から、我々は以下のような要求仕様を作成した。ここではその詳細について説明する。
学習計画を立てる際に必要となってくる情報には以下のようなものがある。
学習計画、カリキュラム、時間割の制約、そしてこれまでに履修してきた授業に関する情報を組み合わせれば、その学期に履修すべき授業は簡単かつ確実に決まるはずである。これを行うには、以下に挙げる3つの履修計画のアプローチをサポートする必要がある。
履修の制約は、学習計画に絶大な影響を及ぼす。むしろ学生は与えられた制約の中で、自分なりの学習計画を考え、履修計画を立案する。制約には以下に挙げる3つが存在し、それらを確実にサポートする必要がある。
履修計画を立てる上で必要な情報は膨大である。よってこれらの情報の中で、必要な情報に素早く効率的にアクセスできるための良いインターフェースが必要である。特に、情報を得るというアプローチに様々なビューをもうけ、多角的な情報の検索を可能にするべきである。また情報それ自体もよく整理され、理解しやすく配慮されたものでなければならない。さらにビジュアル的に、学生が使いたくなるような洗練されたインタフェースを備えている必要がある。また、教員など情報を入力する者に対しても同じように、分かりやすく良く整理された入力フォーマットを用意しなければならない。
履修計画支援システムでは、その利用者に向けて積極的に情報を配信するべきである。 学生に向けて履修科目に関する情報を掲載したメールマガジンが定期的に送付されたり、履修科目の情報に更新があった場合はその内容がリアルタイムにメールで告知されるような仕組みが必要である。
履修申告システム、SA/TA登録システム、体育予約システムなど、履修に直結するあらゆるシステムと連携し、履修計画実行の段階においても学生をサポートするべきである。
履修計画を支援する情報とは移り変わりの激しいものである。従ってシステムには、掲載する情報の鮮度を保ち、クオリティーを確保するための情報管理の仕組みが要求される。またその情報を学生に無駄なく使ってもらうために、ユーザー補助の仕組みを整備する必要がある。