大学は、様々なバックグラウンドを持ち、様々な考え方や知識を持つ人々が頻繁に出入りする場所である。大学に集まった教員や学生たちは、お互いの知識を共有し、交換し合うことでお互いを高めあい、成長していく。
大学とはこのような知的生産活動の場を提供する機関であり、その価値は本来このようなところにあるのではないだろうか。しかし現状のSFCでは、以下のような理由からそのメリットを最大限に生かすことができていない。
1について、SFC環境において知識のインタラクションの場として用意されているのは「サークル」、「研究会」、「グループワーク」などといった比較的小さな単位に限定されてしまっている。これではインタラクションの場が小さな単位に限定されてしまい、そこで生産される知識も自ずと制限を受けることになってしまう。
2について、普通の学生は大学を4年間で卒業するが、その学生が4年間の間に得た知識は現状では論文という形でしか大学に残らない。しかし学生が4年間かけて培ってきた貴重な知識が全て論文に収まるはずもなく、大部分の知識はその学生とともに大学から出て行ってしまう。その結果大学に知識は蓄積されにくく、残された知識は流動的かつ断片的なものとなってしまう。
大学おける知的生産活動を活性化させるには、SFCの全ての教員や学生が積極的に知識の交換ができるようなパブリックな環境をなんらかの形で用意する必要がある。また大学に知識を蓄積していくには、教員や学生が大学在学中に得た知識を、他の知識との関連付けとともに、コンスタントに蓄積していくような仕組みが必要である。
enTranceプロジェクトでは、大学における知識の生産と蓄積の仕組みの問題点の解決として、スコープ・時間軸にとらわれない知識の有効なコラボレーションの場、「知的創発環境」をコンピュータ上で構築することを目的としている。その際、新しい知の創造には他人との相互作用、知の蓄積には他の知識との関連付けが必要不可欠であるということに着目し、「知的資源の関わり合い」を中心にすえて考える。
enTranceプロジェクトは昨年の4月から発足し5人のメンバーで進められており、現在は来年度春学期から稼動予定の、「知的創発環境」構築のための第一歩である、Clustrer Navigation Systemの開発を進めている。enTranceプロジェクトは、今後もSFC環境における「知的創発環境」のあり方について探り、コンピュータ上でのその実現方法について考えていく。