1.5 レビューの概要と本書の内容

ここでは,本書で紹介するレビュー方法の大まかな流れと作業内容,それらの作業の詳細を記述した章を説明する.

1.5.1 不良の分類

レビューは「読み手に誤解を与えず,理解しやすい」ことを阻害している部分を指摘することから始まる.

この指摘の際に重要なのは,個別具体的な指摘を行うだけでなく,その不良を分類することで, レビューを受ける者に不良を理解させることである. ある一つの不良に対する対処案は複数提示できるが,不良を注意深く分析することで, それらを本書で紹介する分類法で分類することができるだろう.

本書では,章[不良の分類]にて,「日本語不良」・「目的不明確 」・「構造不良」・ 「粒度不良」というこれらの分類を解説する.

これらの「不良の分類」がレビュアーの念頭にあることで,レビューの効率もあがる.実践経験が少ないレビュアーでも, “どこからレビューを行ってよいのか分からずに,途方にくれる”という状況から脱出できるだろう.なぜなら, 分類にレビューの順番の優先度(詳細は節[分類の優先度]を参照)を設定してあるので, レビューの際には,優先度が高い順に,チャートの記述がそれぞれの分類に当てはまらないかを チェックする作業を行えば良いからである.

1.5.2 原因の分析と対処案の提示

次にレビュアーは,不良の原因とともに,不良を解決する対処案を提示する. この対処案には正解はなく, 様々な選択肢が考えられることが多い.チャートのある部分の不良に対する対処案を実行することで,同時に他の不良箇所も 改善する場合もある.こうした作業の詳細は,本書の章[原因の分析と対処案の提示]で解説する.

なお,本書で紹介する方法では,「不良箇所の指摘と分類」から「原因と対処案の提示」までの作業を 「レビュー票(4)」に書き込み, 作成者にフィードバックするという形式を採用している.

  1. 本書巻末の付録を参照

1.5.3 レビューによる評価

本書で紹介した方法でチャートにレビューを行うことで,チャートの質を総合的に評価することができる. これは節[不良の分類]で述べた,レビューの順番の優先度を評価に利用することで実現できる. レビューの順番の優先度は,「読み手に誤解を与えず,理解しやすい」ことの阻害率が大きい順に設定してある. つまり,チャートで指摘された不良のうち,優先度が高い不良が多いほど,可読性が低く,質の低いチャートであるという 評価を行うことができる.図[チャートの評価基準と優先度]に示したように,不良の指摘数と, 優先度を組み合わせることにより,より現実に即した評価結果を得られるようになる.

図 1.5.3.1 チャートの評価基準と優先度

また,評価の際には,不良部分の階層も考慮に入れて評価を行う.例えば,非常に階層の上位の部分に致命的な不良があるチャートと, 下位の手段に近い部分に不良があるチャートでは,前者の方が可読性が低いということは,容易に想像ができるだろう. このように,不良部分のチャートの階層も評価の対象に考えることで,よりチャートの質を正確に評価することができるようになる. こうした評価方法の詳細に関しては,章[レビューによる評価]で述べることにする.

1.5.4 レビュースキルの向上と練習問題

レビュアーとしてのスキルを高める何よりの近道は,レビューの実践を数多く行うことである.本書で解説するレビューの方法を理解したと 思った時点で,章[練習問題と解答例]に用意した練習問題に解答することを薦める.

なお,本書はHCPチャートのレビュアーを育成するための教科書となることを想定している. よって,本書の読者諸君は,HCPチャートの基本は理解していることを前提に執筆した. しかしながら,自己レビュー能力を育成する という観点から考えると,本書はHCPチャートの初心者のスキルアップに大いに役立つと考えられる.