調査結果

モニター調査

調査対象

共同研究者である日本福祉大学の久保田競教授によって、愛知県亀崎福祉センターに来ている熟年48名を対象にめんそーれ沖縄のモニター調査が行われた。愛知県亀崎福祉センターでは、カラオケ、卓球といった娯楽施設が設置してあり、熟年が集まり交流が持てる場となっている。従って、亀崎福祉センターに集まってくる熟年は、ある程度「趣味を楽しもう」と積極的に動いている人たちであると言える。

機材

実験において以下の機材を用いた。

PowerBookG3

CPU: 233Mhz 画面解像度 1024×768 32000色表示TFT液晶

ゲームパッド Gravisマックゲームパッド

実験に用いたパソコンは、MacOSの動作するノートパソコンで行った。調査のために持ち運ぶことができることと、液晶画面を採用しているため、目の疲れが少ないという配慮からである。ゲームの操作は、Gravis製のゲームパッドを用いた。Gravis製のゲームパッドを採用した理由は、ボタンの数が比較的少く、重さ自体も軽い。そして、取り寄せたゲームパッドの中で一番十字キーが柔らかかったからである。

調査方法

日本福祉大学の生徒が付き添いながら、1人の熟年に強制的に最後までゲームをさせる方法ではなく、友人と話したり、交代しながら気楽にゲームを楽しんでもらい、その様子を調査した。事前にアンケートの質問内容を用意しておいたのだが、必ずしも全員が最初から最後までゲームを行う訳ではなく、アンケート調査も無回答が多くなってしまった。アンケート調査以外に、その場の雰囲気、話したことも含めて学生にレポートにまとめてもらった。

調査結果 〜ゲームのテーマ目的について

◆ゲームのテーマ設定についての反応

旅行というテーマを楽しめた  16人
旅行というテーマをまあまあ楽しめた  5人
旅行というテーマに興味をもってゲームを始めた 7人
旅行というテーマは楽しめなかった  7人
楽しめたという回答とまあまあ楽しめたという回答を併せると回答者の80%の人が旅行というテーマを楽しんでいたようだ。人によっては、ゲームをしながら自分の旅行の経験を話してくれる人もいて、コミュニケーションの題材としても旅行をテーマにしたことは役立っているようだ。その他、「写真がきれいだったため、まるでテレビを見ているようで旅行にいった気分が味わえた。」、「年を取ったらなかなか旅行にもでかけられないので、旅行に興味があった」という意見があった。また、ゲームには興味をなかったが、旅行のゲームということでゲームを始めた人も回答者の20%存在した。以上のことから、熟年向けのゲームのテーマを旅行にしたことは正解だったようである。

旅行というテーマは楽しめなかったという人は、ゲーム自体にやる気が起きなかったか、操作するので精一杯で画面を楽しむまでに至らなかった人であった。

◆長寿度をあげるというゲームの目標について

長寿度というテーマ理解できていない  9人
長寿度というコンセプト曖昧  2人
長寿度というテーマおもしろい   4人
長寿度というテーマつまらない   2人
長寿度をあげるというテーマに対する印象付けが弱く、長寿度をあげることを目的にがんばっている人はあまり見られなかった。また、長寿度の上がる頻度が頻繁でないため、ミニゲームに熱中している間に、ゲーム全体の目的を忘れてしまう人も多くみられた。長寿度というテーマをおもしろいと感じていた人の中には、具体的にどのくらい上がったのかを気にしている人がいたので、めんそーれ沖縄修正版で一日の最後に必ず長寿度を数字で表すようにしている。

調査結果 〜観光シーンについて

◆画面の見易さについて(複数回答有)

画面見やすく問題ない  18人
画面のどこをみていいかわからない   2人
漢字が難しすぎる        10人
文字の大きさ自体は、問題がなかったようだが、沖縄の建物、地名など読み方の難しい漢字が多かったようだ。ふりがなをふる、ひらがなで表記するなどの改善が必要である。めんそーれ改訂版ではある程度、修正してある。画面が見づらいと答えた人は、画面にたくさんのものがありすぎて、どこをみたらよいか分からなかったようである。

◆文章を読み進めていくことについて

文章を読むのが面白い  8人
文章がつまらない  4人
べつになんとも思わない   2人
文章を読むことに戸惑い   2人
操作に精一杯で文章を楽しむことはできない   4人
文章を読み進めるということを楽しんでいる人は、回答者全体の40%にしか過ぎなかった。文章を読み進めるということにはあまり興味を持ってもらえなかったようだ。観光案内のような文章が多かったためだと推測される。また、前述のように漢字が難しかったということも理由の一つである。しかし、沖縄旅行に興味を持っている人は、文章をしっかり読み、沖縄へ行った気分になってもらえたようだ。

モニターの中には、テトリスで遊んだことのある人がいた。彼らは、テレビゲームといえば、テトリスや、インベーダーゲームのようなものという先入観があり、文字を読み進めるタイプのゲームにとまどいを感じていたようだ。

回答者数が少なかったため、独立した項目としてならべることができないが、「選択肢を選んで行動を決定することが楽しい」と答えた人が7名いた。

◆操作性について

操作方法すぐわかった  25人
ゆっくりではあるが操作方法わかった  8人
戻り方がわかっていないようだった   2人
選択肢を選ぶ場面で戸惑っていた  5人
基本的にはわかっているがたまに戸惑う   2人
操作方法は大半の人が理解してくれたようである。しかし、選択肢をまったく理解できない人、十字キーの使い方が分からず機械的に先に読み進めるためのボタンを押している人もみられた。

調査結果 〜ミニゲームについて

以下に各ミニゲームについての調査の中で目立った意見を紹介する。

座禅ゲーム

座禅ゲームは、ミニゲームの中でもプレイヤーが一番初めにプレイするものである。そして一番人気の高いゲームでもある。もぐらたたきゲームに似た単純なルール、最後に得点がでるため、練習するたびに上達を実感できることが要因と考える。また、寝ている学生を叩いたときの声が面白いという意見も多かった。 観光シーンでは、文章を読み進めるときも、選択肢を選ぶときもボタンを短く押すだけで操作をすることができた。座禅ゲームでは、左右に移動するために長くボタンを押さなくてはならない。このボタンを長く押すという操作が以外に難しいようであった。 操作ミスをしても、得点がマイナスになったりするようなことは起こらないため、安心して遊べるゲームだったようだ。

トロッコゲーム

トロッコゲームは、クリアーできるまで何度も挑戦している人とあきらめてしまう人に二分されている。ボタンを押すタイミングがなかなか難しく、クリアーできない人は何度やってもクリアーできず、あきらめてしまうことがあったようだ。
このゲームでは、タイミングをあわせて2つのボタンのどちらかを押さなくてはならない。操作のミスは、ゲームの中でのミスにつながるため焦ってしまって、同時にボタンを押してしまう人も何人かみられた。

レースゲーム

レースゲームも人気ゲームの1つである。一度クリアーしても、残り時間をたくさん残してクリアーできるよう何度も挑戦している人が多かった。「コントローラーごと左右に動く」「よけるときにコントローラーをよこに振る」といった光景が見られた。これは熟年に限らず、子供たちがゲームをしているときにも見られる光景である。そもそもゲームパッド型のコントローラーは、このようなカーレースゲームに向いていないのかもしれない。人は直感的に動きたい方向にコントローラーを動かすのかもしれない。むしろゲームパッドよりもジョイスティックのようなコントローラーの方が向いているようだ。

サッカーゲーム

現実にあるサッカーをモデルにしたゲームであるため、他のゲームでは操作方法がわからなかったが、サッカーなら知っているので操作方法が分かったという意見があった。しかし、ボールを強く蹴り返すためのタイミングがシビアことと、ゲームバランスの問題で、あまり人気のあるゲームではなかった。

買い物ゲームに対する反応

中村家探索ゲームに対する反応

買い物ゲーム、中村家探索ゲームに関する考察

買い物ゲームはロールプレイングゲーム風、中村家探索ゲームは、アドベンチャーゲームになっている。買い物ゲーム、中村家探索ゲーム以外のミニゲームは、目的を達成するために手段が明確である。ところが、買い物ゲーム、中村家探索ゲームでは最終目的を果たすために、小さな問題をいくつか解決しなくてはならない。(例えば、屋根裏に登るためには、はしごをさがさなくてはならない。はしごをみつけるためには、井戸をさがさなくてはならないといったように、小さな目的を順に果たしていくことによって、最終目的を達成する)最終目的を果たすまでの時間が長いため、ゲームの目的が明確に理解できず、途中で飽きてしまっていたようだ。
改善点としては、何かを達成したという感覚、ゲームが進んでいるという印を頻繁に提示することが考えられる。
傾向としては、コンピュータに関わる仕事をしていた人は、軽々とクリアーしていたようだ。これは、階層構造が理解できていること、情報を集め、それをもとに判断する能力に長けていることが考えられる。

はぶ退治ゲーム

ハブゲームも比較的人気があったゲームである。やはり、得点がでることが上達を実感できるためうれしいという意見が多かった。しかし、このゲームは全ミニゲームの中で最も操作が難しい上、画面全体を把握しなくてはならなかったため、少々難しかったようだ。

総評

ミニゲームで人気があったのは、座禅ゲーム、カーレース、ハブ退治ゲームのようにすぐに結果がでて、練習の成果が得点として現れるものであった。逆に人気がなかったのは、頭を使う必要があり、結果がでるまでに時間のかかる買い物ゲーム、中村家探索ゲームであった。

調査後の修正点

長寿度の印象付け
調査の結果、「多くの人が長寿度の意味が分からない」、「長寿度があることを忘れていた」という意見が多かったため、めんそーれ沖縄修正版(ver1.5)においては、長寿度を印象つけるための工夫がなされている。一日の観光を終え、ホテルに戻ってくるたびに、長寿度を数字で表し、その結果に対して評価を表示するようにした。このことによって、自分の得点が相対的によいのか悪いのか判断できるようにした。また、エンディングにおいても、長寿度の値によって3段階に変化するようにした。  また、観光シーンでも長寿度のあがる頻度をあげ、長寿度の印象付けをおこなっている。
ミニゲームモードの搭載
ミニゲームばかりを楽しんでいる人が多かったため、めんそーれ沖縄修正版では、ミニゲームだけを何度も遊べるモードを用意した。
セーブ機能
クリアーするまでのゲーム時間がながすぎるという意見が多かったため、セーブ機能を設けた。セーブ機能は、Macintoshでハードディスクからゲームを起動した場合のみ有効となる。CD−ROMから直接起動した場合、Windowsで起動した場合は、セーブ機能は働かない。ユーザがセーブする操作をしなくてもいいように、各名所シーンの初めの部分で自動的にセーブされる。セーブデータが存在するときは、ゲームを始めた時点で「途中から始める」か、「最初から始める」か選択できるようになっている。ただし、セーブできるデータは、1人分だけである。
ゲームのテンポを早くした
開発当初は、熟年向けのゲームということでテンポがゆっくりのゲームの方が分かりやすいのではという推測があったが、調査の結果「ゲームのテンポが遅すぎる」「クリアーするまでに時間がかかりすぎる」という意見が多く見られた。そのため、画面の切り替えを早めたり、観光シーンの一部を削除して、ゲーム終了までにかかる時間を大幅短縮した。
観光シーンのセリフの改善
「セリフがつまらない」「漢字が難しすぎる」という意見が多かったため、観光シーンのセリフを大幅改定した。難しい漢字をなくし、名所の紹介も形式ばった文体ではなく、少しくだけた文体にした。また、重要ワードは字体を変えるといった工夫をした。
買い物ゲーム、中村家探索ゲームに練習ステージを追加
買い物ゲーム、中村家探索ゲームに関しては、難しいからやりたくないといった意見がかなり多かった。そのため、本番のゲームに入る前に簡単な練習モードを設けた。買い物ゲームにおいては、大きな市場に買い物に行く前に、小さな市場で塩とコショウを安く手に入れるゲーム、中村家探索ゲームにおいては、移動場所を3カ所にしぼり、中村家の家の図面を探し出すゲームを用意した。その時点で難しすぎてできないと思った人は、本番に入らずに次のゲームに進めるようにした。
ミニゲーム操作説明の改善
初版のめんそーれ沖縄では、ミニゲームの操作説明は、画面に操作の説明を表示してそれを読み進めるだけのものであった。ところが、実際に調査してみると、読み進めるためのボタンを押すのではなく、画面に描かれた操作と同じボタンを押している人が多かった。例えば、画面に「下を押すとしゃがむことができます」と書いてあった場合、読み進めるためのボタンを押すのではなく、十字キーの下を押していた。  そこで、めんそーれ沖縄修正版では、操作説明画面で実際に操作の練習を行うように修正した。例えば、トロッコゲームの操作説明画面で、しゃがむことについて説明している場面では、せまってくる岩柱を実際にしゃがんでかわす練習を行う。しゃがんで岩柱をかわすことができると次の説明にうつるようになっている。実際に操作を行って、その操作を理解するまでは先に進めないようにした。
観光シーンで取ったアイテムのフィードバックを早める
観光シーンでいくつかアイテムを手に入れることができるが、取ったアイテムが効果を発揮するのが、後半になってからということがあった。ミニゲームをやっている間にアイテムを取ったことを忘れてしまうため、いくつかのシーンで、アイテムをとってから、効果を発揮するまでの時間を短くした。  また、アイテムをとったことを印象つけるため、画面左側に取得したアイテムの一覧が表示されるようになった。
ミニゲームのゲームバランスの調整
ゲームに慣れている人にとっては、簡単でもゲームの初心者にとっては難しすぎる部分があったり、逆に簡単すぎることがあったため、ミニゲームのゲームバランスを調整した。

研究メンバー紹介


研究代表者  大岩 元(慶應義塾大学 環境情報学部 教授)

研究分担者  久保田 競(日本福祉大学 情報社会学部 教授)

  〃      熊倉 健介(慶應義塾大学 大学院 メディア研究科)

  〃      後藤 剛志(慶應義塾大学 環境情報学部)

  〃      松澤 芳昭(慶應義塾大学 環境情報学部) 

  〃      安藤 一紀(慶應義塾大学 環境情報学部)




謝辞

このような研究の機会を与えてくださった中山隼雄科学技術文化財団に厚く御礼申し上げます。また、共同研究者の久保田競教授、モニターに参加してくださった亀崎福祉センターの方々、取材に協力してくださった沖縄の皆様に深く感謝いたします。


参考資料

kenkonet 健康ネット
kagayaki 中高年のためのゲームソフト「熟年の輝き」
noalarm 脳・アラーム!! 株式会社アルファックス
enokana 「榎本加奈子のボケ診断ゲーム」 発 売 元:(株)オラシオン


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