熟年向けゲーム めんそーれ沖縄 〜長寿探しの旅

ゲーム概要

商店街の福引きで特賞を当てた主人公は、沖縄旅行に出発する。三泊四日の旅行の間に様々な場所を訪れ、沖縄独自の文化に触れ人々と交流する。長寿日本一であるこの沖縄県で、長寿の秘訣を探しだし長寿度をアップさせるのが、ゲームの目的である。ゲームは沖縄の写真を見ながらセリフを読み進めていく「観光シーン」と、観光シーンのところどころで出てくる「ミニゲーム」とで構成されている。観光シーンでの主人公の行動の選択、ミニゲームのクリアーの得点によって、長寿度が増える。

沖縄旅行というテーマについて

旅行のテーマは、沖縄旅行である。沖縄旅行をテーマに選んだ理由には以下のようなことがあげられる。
・熟年でも取り組みやすいテーマ
はじめてゲームをする人、ゲームに興味のなかった人でも、興味を持てるように、ファンタジーやSFではなく、旅行という誰にでも身近なことをゲームの題材にした。

・外へ関わっていこうという気持ちを促す
テレビゲームは屋内で行うものである。そのため、テレビゲームばかりに熱中して外にでなくなってしまう恐れがある。そこで、旅行に出かけるということをテーマにして、実際にでかけてみようという気持ちを促すねらいがある。

・旅は、日常からの解放であり、生活に変化を与える
ボケの原因の一つとして、変化がなく、刺激のない生活があげられる。擬似的にでも旅を体験することによって、日常から解放された気分を味わって欲しいというねらいがある。

・長寿の県沖縄をテーマにすることによって、健康への関心を高める
沖縄は日本一長寿の県である。沖縄独特の文化の中から長寿の秘訣を探しだすことを目的にすることで、普段の生活の中でも健康に気を使ってくれるようになることをねらいとしている。

ゲームの構成について

 本ゲームは、写真の取り込みを中心とした「観光シーン」と、イラストで描かれた主人公(プレーヤー)が活躍する「ミニゲーム」の2種類のシーンで構成されている。観光シーンを進めていく途中で、アクシデントやイベントが起こるとミニゲームシーンになる。ミニゲームは、各観光地につき1つ存在する。

観光シーンについて

観光シーンは、沖縄の名所を巡るシーンである。実際に沖縄で取材して撮ってきた写真、動画を見ることで沖縄旅行の疑似体験ができるようになっている。

操作について

プレイヤーが一番始めに取り組むのが、この観光シーンであるため、操作方法はきわめて簡単で、ボタン1つを押すだけでゲームを進めることができるようになっている。もう1つのボタンを押すことによって、今まで見ていたシーンをもう一度見ることもできる。ある程度ゲームを進めると、プレイヤーの行動を選択する画面が出てくる。行動を選択するシーンでは十字キーの上下を使って行動を選択するという操作方法が加わる。

画面のレイアウトについて

画面のレイアウトに関しても高齢者に向けた配慮がなされている。木、和紙などを基調としたデザインで、見た目に柔らかい印象を与えている。文字の大きさもかなり大きめのフォントを用いている。ボタンを押して先に進むべきところでは、メッセージボードの右下にボタンを押すよう促すアイコンがでてくる。行動を選択するシーンにおいては、選択肢が画面中央に表示される。十字キーの上下を押すことで現在選択中であることを表す枠が上下に移動する。

現在の長寿度は、画面右側の赤いバーによって表される。ゲームを進めていくなかで、長寿の秘訣を見つけると、ファンファーレとともに長寿度バーが伸びる。開発当初は、数字で無機質に表示するよりも、バーを用いることで視覚的に長寿度を表現した方が分かりやすいと考えバーを用いたが、調査の結果、どのくらい長寿度が上がったか分かりにくいとの指摘があり、改訂版めんそーれでは、一日の終わりのホテルシーンで、長寿度を数字で表示するようになっている。旅の途中で手に入れたアイテムは、画面左側に表示される。

首里城
観光シーン画面レイアウト

イベント性、人々に会うことについて

旅の醍醐味の一つに人との出会いがある。本ゲームにおいても旅先での出会いがある。選択肢で擬似的に会話を楽しむことができる。人との会話、コミュニケーションはボケ防止に効果がある。

ミニゲーム

 観光シーンを進めていくとミニゲームが始まることがある。各名所に1つミニゲームが存在する。ミニゲームでは、イラストで描かれた主人公を操作する。シューティングゲーム、アドベンチャーゲーム、RPGゲーム、アクションゲーム、スポーツゲーム、レースゲームの計6種類、7個のミニゲームが存在する。操作方法は、それぞれのゲームで異なるが、始まる前に必ず説明が入る。ゲームをクリアーすることによって、長寿度が上がったり、特別な品物を手に入れることができる。また、ゲームがクリアーできなくても何度も挑戦できるようになっている。ゲームの難易度は、ゲームを進めるに従って難しくなる。

ミニゲームの紹介

座禅ゲーム
お坊さんの代わりに、座禅の最中に眠ってしまう学生をたたき起こす、アクションゲーム。左右に動いて、学生の後ろに回りこんで、棒でたたく。学生を起こすたび、点数が入り、寝はじめてから早く起こすと高得点になる。制限時間60秒内でどれだけ得点できるかということを競う。


トロッコゲーム
トロッコに乗って洞窟の奥にいる女の子を助けにいく、アクションゲーム。頭上の岩の柱をしゃがんでよけたり、穴を飛び越えながらゴールを目指す。柱にぶつかったり穴に落ちると、ハートが減っていき、3個のハートがなくなると、ゲームオーバーになる。タイミングが要求されるゲームである。


レースゲーム
サボテンが群生している中をランドカーで走り一定時間内にゴールを目指す。サボテンにあたるとスピードが落ちてタイムロス。途中、残り時間の増える時計アイテムや、一定時間サボテンに当たっても平気な状態になるオイルをとることができる。残り時間がなくなるとゲームオーバー。


ビーチサッカーゲーム
上下に動いてボールをけり返す。タイミングよくボタンを押すと強く蹴り返すことができる。制限時間は60秒。相手のゴールにボールをたくさん入れたほうが勝ち。観光シーンの行いによって、対戦相手が変わる。


買い物ゲーム
上下左右に動き、市場の人から情報を集め、料理に必要な材料を買い集めるゲーム。RPGの街のシーンだけを切り取ったようなゲーム。買い集めた材料によって、”沖縄名物ごーやちゃんぷる”、”とうふよう”などの料理が食べれるが、きちんと市場の人達から情報を入手し、必要な材料を買いそろえないとゆで卵やソーメンしか食べることができない。また、同じ食材でも店によっては、値段が違うため、よく比較検討しないとお金の無駄になってしまう。
 情報を集め頭の中で整理して、その情報を組み立てなおして問題を解くという情報社会には欠かせない能力と記憶力を育成するといった教育効果を持つ。


中村家住宅跡
中村家に隠された山羊汁のレシピを探し出すアドベンチャータイプのゲーム。「移動」「調べる」「地図」「やめる」の4つのメニューから行動を選択し、中村家住宅跡の中を探索する。「移動」を選んだ場合は、サブメニューとして、移動先一覧が表示される階層メニューになっている。ところどころにあるヒントを見つけだし、山羊汁のレシピを探し出すことが目的である。


ハブ退治ゲーム
上下左右に動いて、ハブを銃で退治するゲーム。観光シーンで集めたハブよけスプレーを使うといっきにハブを倒せる。このゲームでは、十字キーをつかいながら、さらに2つのボタンをタイミングよく押し分けなくてはならない。ハブを倒すと落ちてくる壺(ハブ酒の壺)を多く取れば取るほど長寿度があがる。最後のボスハブを倒すとクリアー。


ミニゲームの順番と操作の複雑さについて

高齢者のためのゲーム作りということで一番苦労したのが、操作性の問題である。もともとコンピュータに抵抗感がある人が多いため、操作性を極力簡単にしないと、コントローラーに触れさえしてくれない。そのため、ボタン1つを押していくだけで、沖縄の観光気分を味わえる観光シーンからはじまり、ミニゲームによって徐々に複雑な操作を覚えていく。その操作の順番を表に示す。

表 ゲームの操作の一覧。上の項目ほどゲームの早い段階である
観光シーンボタン2つ ボタン短く押す
観光シーン上下への移動 ボタン2つ ボタン短く押す(選択場面)
座禅ゲーム左右への移動、ボタン1つ ボタン長く押す
トロッコゲーム下キー、ボタン1つ タイミング良くボタンを押す練習
レースゲーム左右への移動、ボタン1つ 一つのボタンを押しながらもう一つのボタンを押す練習
ビーチサッカー上下の移動、ボタン1つ 2つのボタンを使いながらタイミングを取る練習
買い物ゲーム上下左右への移動、ボタン1つ
中村家探索ゲーム上下の移動、ボタン1つ 階層化されたメニューを操作練習
はぶ退治ゲーム上下左右への移動、ボタン2つ


ゲームパッドの操作に慣れている人にとっては、何ともないことではあるのだが、ボタンを長く押す、短く押すということの違い、2つのボタンを同時に押すか、交互に押すかといった違い、右手と左手を同時に使うかといったことは、ゲームに不慣れな人にとっては影響が大きく、それを考慮した順番になっている。簡単な操作から複雑な操作へと次第に移行することによって、操作方法をスムーズに学習することができる。最終的には、上下左右の動き、2つのボタンをタイミングよく使い分けることができるようになる。複雑な操作を行うことによって、指を動かし、脳に刺激を与え、ボケを防止する効果がある。

操作説明画面について

簡単な操作でゲームへ導入し、次第に複雑な操作を学習させるため、ミニゲームのたびに新しい操作を覚えなくてはならない。そのため、各ミニゲームの前には、必ず操作方法についての説明が入るようになっている。画面に表示されたコントローラーを見ながら、ゲームの操作を段階を分けて、練習する。例えば、座禅ゲームにおいては、まず十字キーを使って左右に動く練習をしたあと、棒を使って生徒をたたき起こす練習を行う。実際に練習を行うことによって、ゲームの操作の学習効果を高めている。
買い物ゲームはロールプレイングゲーム風、中村家探索ゲームはアドベンチャーゲームになっている。ロールプレイングゲーム、アドベンチャーゲームの概念は、ゲーム初心者にとってすぐに理解できるものではない。そのため、買い物ゲーム、中村家探索ゲームにおいては、操作説明が終わったあと、本番のゲームに入る前に練習用のステージを用意してある。例えば、買い物ゲームの場合は、大きな市場に食材を買いに出かける前に、小さな市場に塩とコショウを買いにいく。そこで、ゲームの目的、コツを覚えてもらう。



ボケ防止のための工夫

本研究では、ゲームを行うことで指を動かし、脳に刺激を与えるということ、ゲームを通してコンピュータに触れることの抵抗感を無くし、社会に積極的に関わっていくために必要な操作を覚える、旅行ゲームという題材によって感性を刺激するという観点からボケを防止できるような工夫をしている。

ゲームを使って指を動かす

脳に刺激が送られなくなると痴呆症になる可能性が高まる。共同研究者の久保田競教授の研究により、指先を使うことで脳に刺激を送り、ボケ防止に効果があるということが分かっている。 そこでテレビゲームを行い、指先を動かし、脳に刺激を送ることを考えた。しかし、いきなり複雑な操作はできないので、前述の通り簡単な操作から複雑な操作へと導入し、指先を動かすということに慣れてもらう工夫がしてある。

ゲームに含まれる学習要素

めんそーれ沖縄では、ゲームの中で、情報社会で生きていくために最低限必要なコンピュータの操作、概念に関わる学習を行うことができる。
メニューの選択
選択肢を使ってメニューを選択するという行為は、コンピュータを扱う上で基本的な操作である。駅の券売機でも、銀行の現金自動支払機でも、パソコンの操作でもメニューを選択するというのが操作の基本となっている。コンピュータを苦手とする高齢者の多くは、メニューを選択するという行為に不慣れである。操作が間違っていたら、機械が壊れてしまうのではないか、予想していたのと違う動作をするのではないかという恐れがあるようだ。このゲーム内では、メニューを選択させるシーンが繰り返し出てくるが、メニューを選択した結果によって、長寿度が減ることはない。結果がマイナスの印象を与えないように配慮してある。そうすることによって、メニューを選択することへの抵抗感を減らすという意図がある。

情報を集め、それをまとめて判断を行う
浜松医療センター金子満男氏\cite{hamamatu}によると、ボケは前頭前野の故障から起こる。前頭前野は、脳の司令塔で、情報を吟味し、《今、どうすベきか》の判断をくだす働きをする。
 買い物ゲームは、市場の人から話を聞き、情報を得て、その断片的な情報をもとに、どの食材をどこの店で買ったらよいかということを判断するゲームである。このゲームでは、断片的な情報を集め、記憶し、吟味し、判断を行う能力が問われる。つまり、前頭前野を使うゲームなのである。
 また、情報を集め、吟味、判断する能力は、脳を使うだけでなく、現代のような情報社会において、活発に行動していくために必須の能力である。

階層メニュー、階層構造の把握
銀行の自動販売機、ビデオの録画予約といった、やや複雑な操作では、メニューが階層化されている。高齢者に限らず、コンピュータに不慣れな人は、この階層構造にとまどってしまうことが多い。社会の情報化に伴い、インターネットのウェブページ、パソコンのフォルダ構造のように階層構造をもったものは、今後も増えていくと予想される。
 中村家探索ゲームは、メニューを選ぶことによって行動を選択し、山羊汁のレシピを探し出すゲームである。そのメニューの中で、「移動」の項目が階層メニューになっている。移動を選択すると、画面中央に移動先一覧が表示される。1つの行動を行うために2つのメニューを順番に選択しなくてはならない階層構造になっているのだ。また、中村家の構造自体が階層構造になっているため、視覚的に階層構造を把握、学習することができる。



◆階層構造の把握について補足 たとえば以下の図において、AからCに移動するためには、A→B→Cの順番に進む必要がある。また、CからEに移動するためには、C→B→A→D→Eの順番に移動する必要がある。このようにデータが階層構造は、コンピュータの導入によって広く用いられるようになってきた。



旅行ゲームという題材

浜松医療センター金子満男氏\cite{hamamatu}によると、ボケは前頭前野の故障から起こる。前頭前野の故障の原因の一つに、感性を司る右脳の働きが弱くなってくることが挙げられる。 美しい音楽や絵画に触れて感動したり、ゲームをして楽しめる《感性》や《意欲》を司る二次中枢が右脳にある。右脳では、情緒や趣味、スポーツ、ゲーム関係の情報を処理しているのだ。
そこで、沖縄旅行を題材としたゲームを作成することにした。沖縄旅行を疑似体験することによって、きれいな景色の写真を見ることができる。ゲームの進行を盛り上げるBGM、ミニゲームで遊ぶことによって、右脳を刺激し、ボケ防止に役立てる。
また、旅とは日常からの解放であり、擬似的に旅行を体験することで、外への関心を向け、生活に変化を与えるという意図もある。



開発環境及び動作環境

めんそーれ沖縄は以下の環境で開発を行った。

PC: MacintoshG3 300Mhz

OS: MacOS 8.1

使用ソフト: Macromedia Director 6.5J 、Photoshop 4.0J

また、めんそーれ沖縄が動作する環境は以下のようになっている。

Macintoshにおける動作環境

PC: PowerPCを使用したMacintosh

OS: MacOS 7.6以上

画面解像度: 800×600以上の解像度

表示色数: 32000色以上

CD-ROMドライブ: 6倍速以上推奨

QuickTime 3.0以上がインストールされた環境


Windowsにおける動作環境

PC: Pentium 166MHz以上のCPUを搭載したDOS/V

OS: Windows95,98

画面解像度: 800×600以上の解像度

表示色数: 32000色以上

CD-ROMドライブ: 6倍速以上推奨

QuickTime 3.0以上がインストールされた環境
※ただし、Windows版では、音の同期が取れないため、正式にはサポートしていない。実験の環境もMacintoshで行った。これらの不具合については現在調整中である。


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