中山隼雄科学技術文化財団 平成10年度 委託研究
「老人ボケ防止ソフトに関する研究」
遊びの創造研究会
はじめに
「日本人は働き過ぎである」とよく言われる。現代の日本の社会には、仕事のことばかり考え、"遊び"を失ってしまった"仕事人間"が多く存在する。そんな"仕事人間"が定年退職を迎えるとどうなるだろうか。いままで趣味もそっちのけで、仕事をしてきた"仕事人間"は、"生き甲斐"を失ってしまう。”何かを始めたい”、”感動したい”そういった気持ち、感性を無くしてしまい、無気力になってしまう。そして、脳を使うことが減り、老人痴呆症になりやすくなる。
彼らは"遊び"を忘れてしまっているのではないだろうか。
"遊び"は子供にだけ必要なものではない。生涯を通して必要なのだ。"遊び"によって、人は感性豊かになり、ストレスを発散し健やかな生活をおくれるようになる。"遊び"は人が生きていくために不可欠な潤滑剤なのである。
本研究は、"遊び"を生涯を通して行うものと捕らえ、老後における"生き甲斐"としての遊びを提案するものである。
研究の背景・目的
高齢化社会で求めれらるもの
急速な高齢化の進む日本では、2015年頃には、人口の4分の1が65歳以上となり、世界でも類をみない超高齢社会になる。福祉施設が不十分、年金制度の破綻、老人ホームの不足、介護者の不足…。問題点を数え上げればきりがない。数ある問題の中でも老人ボケは大きな問題である。1998年の段階で65歳以上の在宅老人のうち、約60万人は老人ぼけのお年寄りであるといわれてる\cite{kenkonet}。この数字は今後、人口の高齢化が進むにつれ、ますます増えていくことが予想される。このような時代にどのようなことが求められているのだろうか。
ボケを防止するには、栄養のバランス、適度な運動、規則正しい生活習慣はもちろん、趣味や生き甲斐をもつということが重要になってくる。仕事以外に生き甲斐をもっていない人は、退職とともに脳への刺激が急激に減り、ボケる可能性が高くなる。また、都会では、他人との関わりも希薄で外にでて人と話す機会があまりなく、家に閉じこもりがちになってしまう。変化のない日々が続き、やはりボケの原因となってしまう。趣味や生き甲斐を持ち、積極的に人に関わっていくことによって、心身に刺激を与えることによってボケを防止する必要があるのだ。
高齢化社会で求めれらるもの
情報化の進んだ現代では、生活するために必ずコンピュータに触れなくてはならない。身の回りの電化製品はもちろん、駅の自動券売機や、銀行の現金自動支払機におけるまで、ありとあらゆるところにコンピュータが存在する。当然高齢者もコンピュータに触れなくては生活できない。
街を歩くと銀行の現金自動支払機や、駅の自動券売機でまごついている高齢者をよくみかける。比較的コンピュータに慣れている若い世代にとっては、銀行業務、切符の販売の自動化によって暮らしが便利になっているが、高齢者にとっては、逆に不便になっているのだ。せっかく、趣味と生き甲斐をもって積極的に社会に関わろうとしている高齢者が増えても、コンピュータが障害となり、高齢者の行動の妨げとなってしまう。コンピュータの操作方法をより簡単にする工夫も必要ではあるが、高齢者も”ボタンを押してメニューを選択する”程度の基本的な操作方法を学ぶ必要がある。
研究の目的
本研究では、"生き甲斐"としての"遊び"を提案し、以下のことを目的にテレビゲームの試作品を作成した。
- 熟年にも親しみやすい、楽しく遊べるゲームを考案する。
- 熟年でも気軽に遊んでもらえるような、操作性、画面のレイアウトを考案する。
- ゲームによって、コンピュータ操作の基本、情報の収集など、情報社会に対応するための知識を楽しみながら学習することができる手法を提案する。
- ゲームをすることによって、手先を動かし脳に刺激を与え、ぼけ防止に役立てる。
研究分担
(1)熟年向けボケ防止ゲームの作成
「めんそ〜れ沖縄 〜沖縄旅行 長寿探しの旅〜」 の試作
研究分担 慶応大学
(2)熟年モニターにゲームを実際に行ってもらい、反応を調査する
研究分担 日本福祉大学
従来の取り組み
高齢者がゲームに取り組めるための環境作り
若者向けに作られたゲームの中にも、高齢者が楽しめるものが存在する。それらのゲームを高齢者に進んで楽しんでもらえるような環境作りが行われている。
- 全日本ぷよ協会公式
ゲーム会社のコンパイル(http://www.compile.co.jp/)は、パズルゲーム「ぷよぷよ」のシルバー大会を行っている。参加者は、60才以上限定で、1999年10月現在で4回の大会が行われている。参加者は、100名近くにのぼり、最高年齢は78才となっている。
- 熟年専用ゲームセンター「遊楽園」
大阪にあるゲームセンター「遊楽園」では、熟年にゆっくりとゲームを楽しんでもらうために50歳未満を入場禁止した。ゲームセンターを交流の場として利用してもらうことがねらいで、お弁当の持ち込みも可能である。店内には、電車シュミレーションゲーム、競馬ゲーム、メダルゲームといった、熟年でも楽しめるゲームが設置されている。
「若い人の入場お断り」。大阪市に97年12月開店したゲームセンター「遊楽園」は50歳未満の入場を断っている。それでも毎日、100人以上が来店し、メダルゲームなどを楽しむ。静岡県富士宮市の浅間大社によると、昨夏、富士山頂で記帳した数え年70歳以上の人は816人にのぼった。50歳どころか60-70歳でも、もはや「老後」ではない。
(日経新聞より抜粋)
高齢者に向けたぼけ防止用ゲーム
- 熟年の輝き
株式会社中国サンネットがボケ防止のために開発したソフト\cite{kagayaki}。Windows95にて動作する。人間の脳の働きのうち、記憶力、瞬発力、判断力、思考力、構成力を刺激する簡単な5つのゲームで構成されている。
- 脳アラーム
株式会社アルファックスによって開発された。脳の機能をチェックすることが出来、ゲーム感覚で楽しく脳を鍛えることも出来るソフト\cite{noalarm}。脳や痴呆症についての解説を行うコーナー、12項目の脳チェックで脳の働きをチェックするコーナー、脳の知識や生活改善のためのヒントを簡単なクイズで身につけるためのコーナーの3つのコーナーがある。Windows95にて動作。ゲームの要素はあまり強くない。
- 榎本加奈子のボケ診断ゲーム
(株)オラシオン制作。様々な悩みやストレスを抱える現代人の「ボケ度」をタレントの榎本加奈子さんがセラピストとなって診断するゲーム\cite{enokana}。判断力、集中力、反射神経、リズム感、持久力といった能力を鍛えるためのゲームがある。PlayStation版とWindows,Macintosh版が存在する。タレントを起用することによって、他のソフトよりもエンターテイメント性が強くなっている。
以上のようなソフトが、ボケ防止のために開発されているが、いずれも脳の働きのチェックテスト的なゲームになっている。いくら脳の働きに改善があるといっても、高齢者が喜んで遊んでくれるようなゲームでなければ、効果がない。ゲームのボケ防止への有効性だけでなく、ゲームのおもしろさ自体についても考える必要がある。
次の章へ →
Copyright (C) 2000- by Ohiwa Lab Keio Univ. All Rights Reserved