10.4 アナログ情報とデジタル情報

前頁では画像の取り扱いについてアクセシビリティという観点から復習しました.画像に限らず,私たちはコンピュータを利用して様々な情報を取り扱うことができます.ここでは,アナログとデジタルという視点から,コンピュータ内部でどのように情報が扱われているのかについて学習します.

社会の情報化が進むにつれ,様々なところでデジタルという言葉や,その対比としてのアナログという言葉を耳にするようになりました.ここでは,日常使われているデジタルやアナログという言葉が何を意味しているのか,両者にはどのような違いがあるのかについて理解することを目的とします.

 

アナログ情報とデジタル情報

情報科学において,アナログやデジタルとは「量」という概念からみた情報の分類の仕方を表すものです.我々は様々な量に囲まれて生活をしています.その中でも,例えば机や椅子の数のように,1個,2個・・と数えることができる量と,重さや長さ(例えば,70.2432...kg,181.2436...cm)のように厳密に測ろうとすればいくらでも細かく測りうる量とがあり,それぞれ離散量(デジタル量)連続量(アナログ量)と呼ばれます.情報にも,連続量で表されるアナログ情報と離散量で表されるデジタル情報があります.

アナログとデジタルを比較する例として,時計について考えてみましょう.本来時間は連続的に流れていくものとして考えられます.この時間の流れを針の回転に対応させたものがアナログ時計です.また,時刻を1秒(もしくは1分など)ごとに数値として表したものがデジタル時計です.時刻だけでなく,温度や重さなど様々な種類の同じ情報をアナログとデジタルで表現することができます.

皆さんが普段利用しているコンピュータは,ONかOFFか(1か0か)の電気信号の組み合わせとして情報を処理する機械,すなわち離散量を持つデジタル情報を扱う機械です(アナログ量で計算を行なうアナログコンピュータもかってありましたが,今では使われません).

標本化と量子化(音のデジタル化を例に)

コンピュータは直接アナログ情報を処理することができないため,情報を入力する際にアナログ情報をデジタル情報に変換する必要があります.情報をデジタル化することによって,文字や音声,画像,動画など様々な情報をコンピュータによって統合的に処理できるようになりました.以下では,音を例にアナログ情報をデジタル情報に変換する方法について学びます.

アナログ情報をデジタル情報に変換することを,アナログ/デジタル変換(以下 A/D 変換 と略記)といいます.

さて,A/D 変換は,標本化(sampling)と量子化(quantization)という二段階を経てなされます.

  sampling & quantization
標本化と量子化

   
標本化(sampling)
音のアナログ情報があるとします.この波形を時間の関数として,時間軸に沿って時間点列T0,T1,T2,・・・Tnをとり,各点での波高値Fを読み取ります.この作業を標本化といい,標本の結果得られる値を標本値といいます.
量子化(quantization)
波高値は連続量ですから一般に少数以下の値が存在しますが,その値を一定の単位で整数値で近似し,それを波高値とみなします.この整数化の作業が量子化です.

このように,元の音声波形は標本化と量子化によって適当な整数値の集合として表現することができます.この整数値を電気信号列に置き換えることによって,元のアナログ情報をデジタル情報として取り扱えることになります.音声をA/D 変換して伝送すると,もとの音声波形の姿ではなく数値列として伝送されるため,受け取った側がそのまま聞きとることは出来ません.このため,A/D 変換されたアナログ信号を人間が扱うためには,元のアナログ情報に戻す必要があります.この変換をデジタル/アナログ変換(D/A 変換)といいます.

音と同様に,画像も標本化,量子化という過程を経てデジタル化されます.10_3で説明したように,ビットマップ画像は画像を小さな点(画素,picxel)に分割し(標本化),各ピクセルに色情報を3バイトの整数として表した値を割り振ります(量子化).標本化を細かくすればするほど画像の品質は向上しますが,画像の情報量は増大します.

デジタル情報の特質

デジタル情報は次のような性質を持ちます.

雑音に強い
一般に,伝送したい信号に影響を与えて信号を歪めるものを雑音といいます(雷がなるとテレビの画面が乱れることがありますが,これは画像情報を伝える電波に雷の電波が雑音として加わったためです).アナログ情報は雑音の影響を受けやすい性質を持っています.電気信号を伝送しようとした時,電流の波形(アナログ情報)に注目すると,波形は伝送に伴い雑音の影響を受け歪められます.しかし,波形ではなく信号が「来た、来ない」ということに注目すると,1つの信号が1つとして認識できさえすればデジタル情報としての価値は減りません.伝送する信号を,波形ではなく,信号がいくつやってきたかという個数に着目すれば,雑音の影響は大幅に改善されます.
信号のアナログ的解釈とデジタル的解釈
例えば,1℃間隔で温度を表示するデジタル温度計では,20℃と21℃の中間値はなく,20℃か21℃のどちらかとして表示されます.そのため,20℃の温度が雑音の影響を受けて19.8℃や20.3℃になっても,これを20℃として考えることができます.つまり,デジタル情報は雑音の影響が一定範囲内であればもとの情報を再現することができるのです.
複製が容易
アナログ情報は雑音の影響を受けやすいため,情報を複製するに伴い劣化していきます.しかし,デジタル情報は雑音に強いことから,情報を元の形のまま複製することができます.
加工が容易
デジタル情報は数値列として表されるため,コンピュータによって容易に加工することができます.文書処理ソフトウェア(emacs など)で文書を作成する場合,文書の一部を複製して貼り付けたり,修正することが容易にできます.しかし,原稿用紙の上でこれと同じ編集結果を得ようとすると非常に手間がかかります.
注意
現在ソフトウェアや音楽ファイルの違法コピーが社会的問題になっています.デジタル情報は複製が容易に行える反面,常に著作権に留意する必要があります.

デジタル化の例

私たちの日常生活の中でデジタル化が進んでいる例として,次のようなものが挙げられます.

音楽
記録媒体がアナログレコードやテープレコーダからCDやMDへ変わってきています.
画像(静止画,動画)
アナログカメラで記録されていたものが,デジタルカメラで記録されるようになりました.
電子図書館
書物等図書館にある情報をデジタル化することによって,直接図書館に行かなくてもその情報を得られるようになりました.
切符,定期券
デジタル化されたことによって,機械による自動処理(自動改札)が可能となりました.

他にも日常の様々なところでデジタル化が進んでいます.他にどのような例があるか調べてみましょう.

アナログ/デジタル(A/D)変換のトレードオフ

A/D 変換の原理からわかるように,アナログ情報をデジタル化する際には標本化と量子化による誤差が入り,完全には元の波形を再現できません.採集する標本点を増やし,量子化の単位を小さくすればする程デジタル化された情報は元のアナログ情報に近づきますが,取り扱う情報量は多くなります.そのため,A/D 変換の際には品質と情報量の増加の兼ね合いを考慮する必要があります(このように,一方を立てれば他方が立たないという関係をトレードオフと呼びます).

例えばCDは,細かく標本化と量子化を行うことによって再生時の品質を向上させることができますが,コスト等との兼ね合いから適切と判断される情報量になっています.

10_5 では,文字情報のデジタル化について学びます.