2001年度修士論文

オブジェクト指向プログラミング教育に関する研究

[所属]
松澤 芳昭


概要

日本における情報技術(IT)分野の発展は人材の育成にかかっている。
 しかし、IT技術者の絶対量の不足が深刻であることから、文系出身者などのITに関する専門教育を受けていない人材にまで無理に知識を詰め込むという方法で技術者を育ててしまっている。その結果として、質の悪い技術者が生み出され、技術者のモラルハザードというべき現象までが起きている。
 このようにして育てられた技術者は、技術の背景にある考え方を捉えていない。無理に詰め込まれた知識から公式を当てはめるようにして問題解決をしていくために、技術を誤って適用してしまうことが起こる。特に、近年世界標準となっているオブジェクト指向技術に関して、この問題は深刻である。オブジェクト指向プログラミング言語や、モデリング言語を知識として習得した技術者が、その背景にある考え方を知らずに技術を適用する結果として、オブジェクト指向技術が本来もつ、堅牢性、拡張性などの利点が得られなくなる。
 この問題を解決するために、オブジェクト指向技術を背景にある考え方から教育するカリキュラム「オブジェクト指向哲学」を試作し、実験を行った。
 このカリキュラムの特徴は、オブジェクト指向技術を考え方から教育するために、歴史に沿って構造化プログラミングの手法を教育した後に、オブジェクト指向プログラミングの手法と対比することで、オブジェクト指向技術を使う利点を明確にしながら教育することである。もう一つの特徴は、カリキュラムの作成にInstructional Designの手法を取り入れていることである。学習目標の整理と分類をすることで、効果的、効率的なカリキュラムを開発することができた。
 「オブジェクト指向哲学」を使って実際に企業で教育してみた結果、オブジェクト指向技術者を育てるために非常に有用であるという評価を得た。また、カリキュラムを作成する際に、Instructional Designの手法を取り入れることによって、学習目標、つまり教育するべきことが明らかになり、それらの分類によって効果的な教授法への方針が導かれることが分かった。
 本論文は、「オブジェクト指向哲学」作成における試行錯誤の過程と実験結果を報告するものである。
キーワード:
オブジェクト指向 技術者 知的技能 意味のカタマリ Instructional Design
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科
松澤 芳昭

Abstract of Master's Thesis Academic Year 2001

Instructional Method of Object-Oriented Programming

The growth of Japanese IT industry depends on the promotion of human resources.

However, they rear their engineers by training the non-professional graduates from the universities through transferring the knowledge of IT, because of the shortage of qualified IT graduates. Even a moral hazard may be seen among such IT engineers because of their incompetency. Those engineers thus raised do not understand the underlying views of their technology and sometimes they use wrong methodology for their jobs.

This problem is especially serious for the object-oriented technologies. Such advantages as robustness and extensibilities may be loosed by erroneously applying them to their jobs. They simply apply the modeling language learned without considering their meaning.

In order to solve this, a curriculum called "Object-Oriented Philosophy" was developed for giving the learners underlying views of object-oriented technologies. After showing the history by structured programming to object-oriented programming, their advantages are clearly discussed.

Another feature of this curriculum is the usage of instructional design. By analyzing the purpose of instructions and by classify in them, effective and efficient curriculum has been developed.

A trial instruction was made for the engineers of an IT industry, and it was highly appreciated by them. Effectiveness of applying instructional design was also confirmed.

Keywords:
Object-Oriented Engineer Intellectual Skills Meaning Group Instructional Design
Keio University Graduate School of Media and Governance
Yoshiaki Matsuzawa

目次

目次 1
第1章 序論 3
1.1. はじめに 3
1.2. Instructional Design 4
1.3. 論文の構成 4
第2章 既存の教育の問題点 5
2.1. 教え方の問題 5
2.2. 教える内容の問題 9
第3章 本研究における基本的考え方 12
3.1. オブジェクト指向技術者に必要な能力 12
3.1.1. 知的技能としての能力 12
3.1.2. 言語情報としての能力 13
3.1.3. 認知的方略としての能力 14
3.2. オブジェクト指向の考え方とは 16
3.3. 考え方から教えるには 18
第4章 研究概要 ―教授法の模索― 19
4.1. 考え方を教える教育 19
4.1.1. 考えさせる授業を行うには 19
4.1.2. 具体例@:コメントの授業でプログラムの意味を考えさせる 20
4.1.3. 具体例A: メソッドの授業で「意味のカタマリ」について考えさせる 24
4.2. 基礎概念を教える教育 27
4.2.1. 知的技能をどのように教えるか 27
4.2.2. 具体例B:「クラス/インスタンス」の概念を教える 29
4.2.3. 具体例C:「継承」の概念を教える 31
第5章 「オブジェクト指向哲学」カリキュラム 34
5.1. 「オブジェクト指向哲学」とは 34
5.1.1. 到達目標 34
5.1.2. 対象学習者 35
5.1.3. カリキュラムの構成 35
5.1.4. テーマ 36
5.1.5. 教育環境 37
5.1.6. 教材 37
5.2. カリキュラムの特徴 38
5.2.1. 歴史に沿って教える 38
5.2.2. 考え方から教える 38
5.2.3. 一貫したテーマで教える 38
5.2.4. 利点を体感させる 38
5.3. プログラミング編カリキュラム 40
5.3.1. 概要 40
5.3.2. 各回の概要 41
5.3.3. 到達目標 49
5.4. UML編カリキュラム 54
5.4.1. 概要 54
5.4.2. 各回の概要 55
5.4.3. 到達目標 59
第6章 評価と考察 61
6.1. 評価方法 61
6.2. アンケート結果 62
6.2.1. カリキュラム全体、基本方針について 62
6.2.2. 教授法について 64
6.2.3. 教師の役割について 65
6.2.4. 難易度について 66
6.3. 考察 67
6.3.1. 基礎概念を知的技能として教えることについて 67
6.3.2. 考え方から教えるということについて 67
6.3.3. 「考えさせる」教授法について 68
6.3.4. カリキュラム全体として 68
第7章 総括 69
謝辞 70
参考文献 71
付録 75

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