6.4 Webサイトの批判的閲覧

今週から,いよいよWebサイトの制作に入ります.目標は,基本的なHTML技術を用いて他人の閲覧にたえられる有意義なサイトをつくることです(折角作っても,誰も読んでくれないのでは単なる自己満足になってしまいますし,面白くありませんね).しかし,他人の評価にたえうるWebサイトを作るためには,Webサイトの品質について自分なりの評価基準を持ち、その良し悪しについて適切な評価を行えるようになることが必要となります.Webページを制作するための準備として,ここではWebページを批判的に読み解く練習を行います.

批判的閲覧とは?

Webは,インターネット上で情報を共有するための仕組みです.インターネット上には無数のWebサイトが存在し,一般的な紙媒体の印刷物と比較した場合,主に以下のような特徴を持っています(出典:「学校で教わっていない人のためのインターネット講座」,有賀妙子・吉田智子著,北大路書房,1999,p53).

・校閲過程の欠如
雑誌等の印刷物とは異なり,校閲がなされないケースも多く,内容の品質にかなりのばらつきがあります(品質保障がなされない).
・変更,更新の容易さ
書物とは異なり,Webではその変更,更新を簡単に行うことができます.
・マルチメディア(Multimedia)
文字以外にも,画像,音声,映像など,印刷物より幅広い情報伝達手法が用意されています.
・ハイパーテキスト(Hypertext)
リンク機能によって,関連項目や関連ページへ瞬時に移動することができます(このような仕組みをハイパーテキストと呼びます).
・閲覧環境による影響
Webページを閲覧する環境(OSやブラウザの種類など)によって,ページの見え方に違いがあります.
・検索可能性
インターネット上には無数のWebページが公開されていますが,これらの中から目的のページを探しだすために,検索を行うことができます(→6.2 情報の検索 ).
・インタラクティヴィティ(Interactivity)
テレビのような一方向的なメディアとは異なり,Webは双方向的なコミュニケーションを提供します.

特に,Webサイトを制作する際には校閲過程が存在しないケースも多く,情報の質にばらつきが生じたり,非常に読みづらい状態で公開されてしまうこともあります.Webという仕組みによって個人でも簡単に情報発信を行うことができる反面,膨大な情報が発信者の区別なく提供され,提供されている情報の品質を誰も保障することができません.必ずしも品質が保障されていない無数のWebサイトの中から,自分の目的とする情報を得るためには,読み手自身が情報の品質を判断し,情報の取捨選択を行う必要があります.つまり,読み手がサイトを批判的に閲覧する力を持つ必要があります.

ここで言う批判的という言葉の意味は,Webサイトの品質について適切な基準に基づいた評価を下せるという意味です.欠点や間違いをあら探しすることではありません(英語でcriticalという言葉は,a. 重大な,危機の,b. 批評の,批判的な,c. 酷評的なといった意味を持ちますが[参考:Oxford Advanced Learner's Dictionary of CUrrent English],ここでは2番目の意味で使われています).

評価基準について

読み手の勝手な主観や感性に基づいてWebサイトを読んでいたのでは,Webサイトを批判的に閲覧しているとは言えません.Webの特性を踏まえた適切な基準をもとにサイトの品質について評価を下す必要があります.ここでは,Webサイトを閲覧する際の具体的な評価基準について考えてみましょう.

● 練習問題

6.2の練習問題で,皆さんには自分の気に入ったWebサイトを検索してもらいました.皆さんがどのようなサイトをどのような評価基準に従って選択したのか,いくつかピックアップしてあります.ここで挙げられた以外にも,Webサイトの品質を評価するためにどのような基準を設けるべきか考え,提案してみましょう.

どのような評価基準が提案されたでしょうか?参考として,一般的にWebサイトを評価する際の評価基準を明示したチェックリストを用意しました(出典:「学校で教わっていない人のためのインターネット講座」,有賀妙子・吉田智子著,北大路書房,1999)チェックリストは次の場所においてありますので,各自印刷して利用して下さい(印刷方法は,→5.2 コンピュータネットワークとは をご覧下さい).皆さんが普段Webサイトを評価・閲覧する際の基準と比較してみましょう.

/pub/WWW/ipl/text/info-2003-9/06/checksheet.ps

チェックリストについて

(出典:「学校で教わっていない人のためのインターネット講座」,有賀妙子・吉田智子著,北大路書房,1999,p73)

(1)領域,範囲
 サイトの目的や閲覧対象者が明確であるかについてチェックします.提供されている情報の目的,分野,概要などがサイトの冒頭に明示されているでしょうか.皆さんが授業で書くレポートと同様,「はじめに」といった概要によってサイトについての情報が明確に伝わってくることが望ましいといえます.

(2)出所,姿勢
 インターネット上では,サイト制作者についての情報が明示されていないサイトも多くあります(CNSでは,原則としてログイン名によるサイト制作者の特定が可能です).このような匿名性が,Webを用いて情報発信する際に感じる気軽さの理由の一つです.しかし,サイトの内容によっては,著者が誰であり,どのような目的や意図に基づいてWebサイトを公開しているのかという点を明示する必要があります.特に,情報提供を行うサイトなどでは,制作者の立場などを記載することによって,閲覧者はサイトに公開されている情報の信頼性について判断がしやすくなります.
 また,サイト制作者との連絡手段が提供されていることによって,サイト制作者はよりよいサイトをつくるためのフィードバックを行うことができます.

(3)内容
 サイトの内容について,内容が正確に閲覧者に伝わるかどうかについてチェックします.画面上で文字を読むことは,印刷物を読むことよりも大変です.適切に段落わけがなされているか,効果的に見出しなどが使われているか,文はわかりやすいか,使われている用語は平易か,などが評価基準として重要となります.
 また,Webでは画像や音声,映像など幅広いメディアを利用することができますが,閲覧者の環境(OSの種類やブラウザの種類など)によっては期待通りの効果が上がらないこともあります.それゆえに,文字だけであっても,伝えたい内容が閲覧者に正確に伝わるための仕組みが必要となります.
 リンクもWebサイトにおいて重要な機能の一つです.しかし,むやみにリンクが貼ってあったり,リンク先のサイトが存在しなかったりするなど,リンクの使い方によってはサイトの操作性は著しく低下してしまいます.リンクがあることによって閲覧者は一体何が嬉しいのかということをきちんと考えているかどうかが重要となります.
 また,通常の印刷物の場合,一度印刷してしまった後は内容の更新はなかなか行われません.しかし,Webでは更新,変更が簡単に行えるため,閲覧者が情報の鮮度を確認できるよう更新日時が明示されている必要があります.

(4)デザイン,構成
 1ページだけのWebサイトというものもありますが,多くのWebサイトはリンク機能によって複雑な構成となっています.閲覧者がサイト内容を理解するための助けとなるような構成になっているかについてチェックします.具体的には,閲覧者が迷子にならないような配慮がされているかどうか(サイトマップの明示など),閲覧者が得たい情報に効率的にアクセスすることができるか,などが基準となります.
 また,全体のサイト構造とは別に,個々のページの構成,デザインもチェックします.必ずしも,画像や映像を多用したページが優れているわけではありません.例えば,特別な意図がない限り,トップページに映像や大きな画像を使うことは閲覧者のストレスを増加させることになります.

(5)環境
 印刷物とは異なり,Webサイトは閲覧者がどのような環境でサイトを閲覧するかによってその見え方が異なります.そのため,特定の環境を前提としたサイト(例えば,閲覧者が使うブラウザがInternet Explorer5.0以上であることを前提とするなど)は,指定以外の環境から閲覧しようとする者にとっては意味のないサイトとなってしまいます.特に,広く情報提供を行うことを目的としたサイトでは,特定の環境を前提とすることはその目的と矛盾してしまいます.
 チェックリストでは,自分の閲覧環境を確認するための項目を設けています.自分の閲覧環境を意識した上で,Webサイトの閲覧を行うためのものです.

(6)主観
 主観自体は批判的閲覧における評価基準ではありませんが,Webサイトに関する好みや印象など,上記の評価基準では評価の難しい点について,意見を書きましょう.

● 練習問題

チェックリストに基づき,皆さんが検索したWebサイトについて評価を行って下さい(問題点を列挙してみましょう).また,チェックリストを用いずに評価を行った場合と何が違うかについて,簡単に感想を記述して下さい.例として,SFCホームページの評価例を示します.