7.2 WEBの批判的閲覧

 今週から,いよいよWEBページの制作に入ります.目標は,基本的なHTML技術を用いて他人が読んでくれる有意義なページをつくるこ とです(折角作っても,誰も読んでくれないのでは単なる自己満足になってしまいますし,面白くありませんね).しかし,他人が読ん でくれるWEBページを作るためには,WEBページの品質について自分なりの評価基準を持ち、その良し悪しについて妥当な評価を行えるよ うになることが必要となります.WEBページを制作するための準備として,ここではWEBページを批判的に読み解く練習を行います.

批判的閲覧とは?

 WEBは,インターネット上で情報を共有するための仕組みです.インターネット上には無数のWEBページが存在し,一般的な紙媒体の印 刷物と比較した場合,主に以下のような特徴を持っています.

・校閲過程の欠如
雑誌等の印刷物とは異なり,校閲がなされないケースも多く,内容の品質にかなりのばらつきがあります(品質保障がなされない).
・変更,,更新の容易さ
書物とは異なり,WEBではその変更,更新を簡単に行うことができます.
・マルチメディア
文字以外にも,画像,音声,映像など,印刷物より幅広い情報伝達手法が用意されています.
・ハイパーテキスト
リンク機能によって,関連項目や関連ページへ瞬時に移動することができます(このような仕組みをハイパーテキストと呼びます).
・閲覧環境による影響
WEBページを閲覧する環境(OSやブラウザの種類など)によって,ページの見え方に違いがあります.
・検索可能性
インターネット上には無数のWEBページが公開されていますが,これらの中から目的のページを探しだすために,検索を行うことがで きます(第6週参照).
・インタラクティヴィティ
テレビのような一方向的なメディアとは異なり,WEBはインタラクティヴなコミュニケーションを提供します.

● 練習問題

SFCのトップページを例に,上記の特徴を確認してみましょう.

 特に,WEBページを制作する際には校閲過程が存在しないケースも多く,情報の質にばらつきが生じたり,非常に読みづらい状態で公 開されてしまうこともあります.WEBページによって個人でも簡単に情報発信を行うことができる反面,膨大な情報が発信者の区別なく 提供され,提供されている情報の品質を誰も保障してくれません.必ずしも品質が保障されていない無数のWEBページの中から,自分の 目的とする情報を得るためには,読み手自身が情報の品質を判断し,情報の取捨選択を行う必要があります.つまり,読み手がページを 批判的に閲覧する力を持つ必要があります.

 ここで言う「批判的」という言葉の意味は,ページの品質について適切な基準に基づいた評価を下せるという意味です.欠点や間違い をあら探しすることではありません(英語でcriticalという言葉は,a. 重大な,危機の,b. 批評の,批判的な,c. 酷評的なといった意味を持ちますが[参考:Oxford Advanced Learner's Dictionary of CUrrent English],ここでは2番目の意味で使われています.) ,自らWEBページを作成し,情報発信を行う際にも重要となります.

評価基準について

 読み手の勝手な主観や感性に基づいてWEBページを読んでいたのでは,WEBページを批判的に閲覧しているとは言えません.WEBの特性 を踏まえた適切な基準をもとにページの品質について評価を下す必要があります.ここでは,WEBページを閲覧する際の具体的な評価基 準について考えてみましょう.

● 練習問題

第6週の宿題で,皆さんの気に入ったWEBページを探してもらいました.皆さんがどのようなページをどのような評価基準に従って選んだか,いくつかピックアップしてあります.このほかにも,WEBページの品質を評価するためにどのような基準を設けるべきか考え,提案してみましょう.

 どのような評価基準が提案されたでしょうか?参考として,一般的にWEBページを評価する際の評価基準を明示したチェックリストを用意しました(出典:「学校で教わっていない人のためのインターネット講座」(有賀妙子・吉田智子著,北大路書房,1999年(http://www.tomo.gr.jp/Internet/check/websheet.html).皆さんが普段WEBページを評価・閲覧する際の基準と比較してみましょう.

チェックリストについて

 (1)領域,範囲
 ページの目的や閲覧対象者が明確であるかについてチェックします.提供されている情報の目的,分野,概要などがページの冒頭に明示されているでしょうか.皆さんが授業で書くレポートと同様,「はじめに」といった概要によってページについての情報が明確に伝わってくることが望ましいといえます.

(2)出所,姿勢
 インターネット上では,ページ制作者についての情報が明示されていないページも多くあります(CNSでは,原則としてログイン名によるページ制作者の特定が可能です).このような匿名性が,WEBを用いて情報発信する際に感じる気軽さの理由の一つです.しかし,ページの内容によ っては,著者が誰であり,どのような目的や意図に基づいてWEBページを公開しているのかという点を明示する必要があります. 特に,情報提供を行うページなどでは,制作者の立場などを記載することによって,閲覧者はページに公開されている情報の信頼性について判断がしやすくなります.
 また,ページ制作者との連絡手段が提供されていることによって,ページ制作者はよりよいページをつくるためのフィードバックを行うことができます.

(3)内容
 ページの内容について,内容が正確に閲覧者に伝わるかどうかについてチェックします.画面上で文字を読むことは,印刷物を読むことよりも大変です.適切に段落わけがなされているか,効果的に見出しなどが使われているか,文はわかりやすいか,使われている用語は平易か,などが評価基準として重要となります.
 また,WEBでは画像や音声,映像など幅広いメディアを利用することができますが,閲覧者の環境(OSの種類やブラウザの種類など)によっては期待通りの効果が上がらないこともあります.それゆえに,文字だけであっても,伝えたい内容が閲覧者に正確に伝わるための仕組みが必要となります.
 リンクもWEBページにおいて重要な機能の一つです.しかし,むやみにリンクが貼ってあったり,リンク先のページが存在しなかったりするなど,リンクの使い方によってはページの操作性は著しく低下してしまいます.リンクがあることによって閲覧者は一体何が嬉しいのかということをきちんと考えているかどうかが重要となります.
 また,通常の印刷物の場合,一度印刷してしまった後は内容の更新はなかなか行われません.しかし,WEBでは更新,変更が簡単に行えるため,閲覧者が情報の鮮度を確認できるよう更新日時が明示されている必要があります.

(4)デザイン,構成
 1ページだけのWEBページというものもありますが,多くのWEBページはリンク機能によって複雑な構成となっています(全体を指して,WEBサイトと呼ぶこともあります).閲覧者がページ内容を理解するための助けとなるような構成になっているかについてチェックします.具体的には,閲覧者が「迷子」にならないような配慮がされているかどうか(サイトマップの明示など),閲覧者が得たい情報に効率的にアクセスすることができるか,などが基準となります.
 また,全体の(ページ間の)構造とは別に,個々のページの構成,デザインもチェックします.必ずしも,画像や映像を多用したペー ジが優れているわけではありません.例えば,特別な意図がない限り,トップページに映像や大きな画像を使うことは閲覧者のストレスを増加させることになります.

(5)環境
 印刷物とは異なり,WEBページは閲覧者がどのような環境でページを閲覧するかによってその見え方が異なります.そのため,特定の環 境を前提としたページ(例えば,閲覧者が使うブラウザがInternet Explorer5.0以上であることを前提とするなど)は,指定以外の環境 から閲覧しようとする者にとっては意味のないページとなってしまいます.特に,広く情報提供を行うことを目的としたページでは,特 定の環境を前提とすることはその目的と矛盾してしまいます.
 チェックリストでは,自分の閲覧環境を確認するための項目を設けています.自分の閲覧環境を意識した上で,WEBページの閲覧を行うた めのものです.

(6)主観
 主観自体は批判的閲覧における評価基準ではありませんが,ページに関する好みや印象など,上記の評価基準では評価の難しい点につ いて,意見を書きましょう.

● 練習問題

配布されたチェックリストに基づき,第6回で皆さんが選んだWEBページについて評価を行って下さい(問題点を列挙してみましょう).また,チェックリストを用いずに評価を行った場合と何が違うかについて,簡単に感想を記述して下さい.例として,SFCホームページの評価例を示します.