中山隼雄科学技術文化財団 平成10年度 委託研究
「老人ボケ防止ソフトに関する研究」 報告書
平成11年


1. 研究テーマ
高齢者向けボケ防止のためのゲームソフトに関する研究
「めんそ〜れ沖縄              
〜沖縄旅行 長寿探しの旅〜」

2.背景
 急速な高齢化の進む日本では、2015年頃には、人口の4分の1が65歳以上となり、世界でも類をみない高齢社会になる。福祉施設の充実、年金制度の整備なども重要ではあるが、社会に出て活躍する活発的な高齢者を増やすということも重要なのではないだろうか。
 活発に行動するためには、ボケることなく、健康な体でいることはもちろん、趣味、生き甲斐をもち、社会と積極的に関わっていくことが重要になる。しかし、情報化が進んだ現在の社会では、社会に積極的に関わっていくためには、銀行の自動振込機、駅の券売機などのコンピュータに触れなくてはならない。
 本プロジェクトでは、生き甲斐としてのコンピュータゲームを提案し、指を動かして遊ぶことによってボケを防止するゲームを作成する。また、ゲームによって、コンピュータ操作の基本、情報の収集など、情報社会に対応するための知識を楽しみながら学習することができる。


3. 研究目的

以上の事柄を実証するために実際に高齢者にゲームを行ってもらい、その反応を調査する。


4. 研究内容

(1)高齢者向けボケ防止ゲームの作成
   「めんそ〜れ沖縄 〜沖縄旅行 長寿探しの旅〜」 の試作

◆ ゲームの概要
 商店街の福引きで特賞を当てた主人公は、沖縄旅行に出発します。日本一平均寿命の高い県として知られる沖縄。主人公は、その沖縄の様々な名所を訪れ、現地の人々と出会い、沖縄独特の文化の中から長寿の秘訣を見つけだします。
 このゲームの目的は、沖縄を旅行するなかで、長寿の秘訣を探しだし、主人公の長寿度をあげることにあります。

◆ ゲームの構成
 本ゲームは、写真の取り込みを中心とした「観光シーン」と、イラストで描かれた主人公が活躍する「ミニゲーム」の2種類で構成されている。

 ・観光シーン
 観光シーンでは、沖縄の名所の写真、動画を見ることがでる。基本的には、次へ進むためのボタン、前に戻るためのボタンの2つのボタンだけを使ってゲームを進めるが、随所に行動選択画面がでてくる。行動選択画面においては、コントローラの十字キーを押して選択肢を選ぶという行動が必要となる。選択肢の結果によっては、長寿の秘訣を見つけることができたり、見ることのできる画像が変化する。

 ・ミニゲーム
 観光シーンの途中でミニゲームが始まることがある。シューティングゲーム、アドベンチャーゲーム、RPGゲーム、アクションゲーム、スポーツゲーム、レースゲームの計6種類、7個のミニゲームが存在する。操作方法は、それぞれのゲームで異なるが、始まる前に必ず説明が入る。ゲームをクリアーすることによって、長寿度が上がったり、特別な品物を手に入れることができる。また、ゲームがクリアーできなくても何度も挑戦できるようになっている。ゲームの難易度は、ゲームを進めるに従って難しくなる。


◆ 高齢者向けゲームということを配慮した工夫

・ゲームを楽しむための工夫
 日本福祉大学久保田競教授の研究によると、高齢者の興味は、自分の健康、お金、色気である。本ゲームでは、この調査結果を参考にして、沖縄の旅行を通じて自分の健康を高める(長寿度を上げる)ことを目的としたゲームを作成した。
 また、沖縄の写真、動画などをふんだんに取り込み、あたかも実際に旅行に行っているかのような疑似体験をしてもらう。旅先での様々な人々との出会えたり、沖縄独特の文化に触れることができる。

・操作方法についての工夫
 まず第一に配慮したのが、誰でも抵抗なくゲームで遊んでもらうために、操作方法を極力簡単にしたことである。まず、ボタンを押しているだけで沖縄の美しい写真を見ることのできる観光シーンから始まる。そして、能動的に選択肢を選ばないと先に進めない場面が登場する。いくつかの選択肢を選んだ後は、より複雑な操作を必要とするミニゲームへと移る。ミニゲームもゲームの進行とともに複雑な操作が求められる。

 ミニゲームの操作方法

    1. 座禅ゲーム    … 左右への移動、ボタン1つ (何もしなくてもクリアーできる。ただし得点が入らない)
    2. トロッコゲーム  … 下キー、ボタン1つ    (このゲーム以下のゲームは何もしないとクリアーできない)
    3. レースゲーム   … 左右への移動、ボタン1つ 
    4. ビーチサッカー  … 上下の移動、ボタン1つ (ボタンをタイミングよく押さなくてはならない)
    5. 買い物ゲーム  … 上下左右への移動、ボタン1つ (情報の収集)
    6. 中村家探索ゲーム … 上下の移動、ボタン1つ (階層化された情報の認識)
    7. はぶ退治ゲーム … 上下左右への移動、ボタン2つ


・画面構成についての工夫
 画面の解像度をあげ、文字を大きくした。画面は木、布、和紙などをテーマにデザインを行い、見た目に柔らかい印象を与えている。また、操作を行うたびに何らかの音を鳴らすことによって操作したというフィードバックを与える。
 現在のバージョンでは、まだ完成していないが、正式版では、音声を入れることによって文字を読まなくても済むようにする。

・ゲームを通じて情報社会に対応するための工夫
 コンピュータゲームで遊ぶことによってコンピュータに触れるということに慣れだけでなく、ミニゲームの中で情報にアクセスするために必要な事項を学ぶこともできる。

 ゲーム全体を通して
 ゲーム全体を通し、選択肢を選んで行動を決定するという行為を何度も繰り返す。

 買い物ゲーム
 ミニゲームの一つ買い物ゲームの目的は、沖縄の名物チャンプルを作るための材料を買い集めることである。市場にいる人たちに話しかけることによって、チャンプルを作るためには、どの材料が必要なのか、どの店で買うと安く材料が買えるかということを情報を得ることができる。情報を集め、まとめることによって、どの材料を買うかを判断しなくてはならない。
 ここでは情報を集め、その情報を整理して状況を把握するということを学ぶことができる。

 中村家探索ゲーム
  中村家探索ゲームでは、中村家の様々な場所を探索し、秘伝の料理書を探し出すことである。料理書を探し出すためには、中村家の中を移動しなくてはならないが、中村家の構造が階層構造になっている。階層構造とは、たとえば以下の図において、AからCに移動するためには、A→B→Cの順番に進む必要がある。また、CからEに移動するためには、C→B→A→D→Eの順番に移動する必要がある。このようにデータが階層構造化されているものの例としては、インターネットのウェブページ、データベース型のCD−ROM、パソコンのフォルダ構造などがあげられる。中村家を探索するうちに自然と階層構造に関しての基礎知識を身につけることができる。


図. 階層構造

 

(2)検証実験
試作したゲームが、高齢者のボケ防止に役立つかどうかということを、実際に高齢者に遊んでもらい、その反応を調査する。検証実験は、3月中旬に行いその結果を反映してゲームを修正する。

 
 
5. 研究メンバー
研究代表者  大岩 元(慶應義塾大学 環境情報学部 教授)
研究分担者  久保田 競(日本福祉大学 情報社会学部 教授)
  〃      熊倉 健介(慶應義塾大学 大学院 メディア研究科)
  〃      後藤 剛志(慶應義塾大学 環境情報学部)
  〃      松澤 芳昭(慶應義塾大学 環境情報学部) 
  〃      安藤 一紀(慶應義塾大学 環境情報学部)