タッチタイピング  タッチタイピングとは、キーボード上に印刷された文字を確認せずに、モニターを見た ままの姿勢でタイピングを行う技術です。パソコンを活用したい人にとって、タッチタイ ピングは必ずマスターすべき技術だと言えます。その利点や練習する際の注意は後で述べ ますが、少なくともキーボードを確認せずに文字を入力する動作は、正しい練習方法なら ば1時間程度の練習でマスターすることができます。さらに、毎日一定の時間練習を続け れば、1ヶ月程度で楽に文章の入力ができるようになります。  タッチタイピングの利点は、キーボードをいちいち確認しながら入力するやり方(ここ では仮に「目視タイピング」と呼ぶことにします)と比べて、パソコンで作業を続ける際 の身体的な負担が圧倒的に軽い点にあります。目視タイピングを一定時間続けることは、 キーボードとモニターとの間で視線を頻繁に行き来させることにつながり、身体に大きな 負担をかけることになります。このような身体的な負担は、作業を行う人の集中力の持続 に影響を与えます。タッチタイピングと目視タイピングの身体的な負担の差は、数時間の 作業時間で見るならば、当然ながら作業効率の差となって現れます。さらに、半年や1年 の期間で比べた場合、タッチタイピングができる人とそうでない人との差は、単に作業効 率の違いのみならず、パソコンで行う知的生産の質的な差となって現れる可能性もあるく らい、大きなものだと言えます。つまり、パソコンを知的生産の道具として完全に「自分 のもの」にしようとするならば、タッチタイピングは絶対にマスターすべき技術なのです。  このような利点があるにもかかわらず、タッチタイピングの技術は必ずしも普及してい るとは言えません。その理由としては、次のようなものが考えられます。まず第一に、タ ッチタイピングでなくとも文字の入力は可能だということです。目視タイピングにもいろ いろな種類がありますが、たとえば人さし指一本だけであっても、入力自体はなんとか可 能です。このことが「わざわざタッチタイピングのために練習をしなくても」という気持 ちに結びつくのかもしれません。さらに、タッチタイピングが普及しない理由として、そ れが実際以上に難しい(あるいは、習得するのに大変な困難を要する)技術だと“誤解” されている点もあげられます。このことの背景には、タッチタイピングの正しい練習方法 が普及していないことや、さらには市販のタイピング練習ソフトの中にも、間違った練習 方法を強いてしまい効果が上がらないものが少なくないことなどが、関係していると考え られます。  タッチタイピングの技術は、タイピングの動作を「身体(指)で覚える」ことをその本 質とします。しばしば誤解されるのですが、タッチタイピングを行うためにキーボード上 のキー配列を暗記する(すなわち、頭で覚える)必要は全くありません。むしろ、キー配 列の暗記などは、タッチタイピングを習得するうえでは邪魔になるとさえ言えます。そう ではなくて、タッチタイピングをマスターするということは、ある言葉を入力するために 必要な「指の動き」を覚えることです。ですから、タッチタイピングをマスターした人は、 ある言葉(たとえば頻繁に入力を行う自分の氏名など)を入力するための指の動きをキー ボードがないところで容易に再現できますが、キーボード上のキー配列を改めて尋ねられ ると答えられないことが多々あります。この「頭ではなく体で覚える」という点に関して は、タッチタイピングについてのもっとも誤解の多い点であると考えられます。市販のタ イピング練習ソフトなどにも、この点に関して誤解をしているのか、キー配列を暗記させ ようと試みるものが多々見受けられます。  タッチタイピングを練習する際には、特に次の点に留意する必要があります。まず第一 に、入力を行う際には必ずホームポジション(一定の指使いを確保するための基本かつ基 準となる指の置き場所)を起点とし、1文字の入力を終えたならばその都度必ずホームポ ジションに指を戻すことを、徹底する点です。第二に、一つのキーは必ず同じ指でたたく (たとえばAのキーは必ず左手小指でたたく)、すなわち一定の指使いを維持するという 点です。つまり、「ホームポジション→1文字入力→ホームポジション」の動作の流れを、 一定の指使いを守りながら続けてゆくことこそが、タッチタイピングをマスターするうえ でもっとも重要なことなのです。この動作を続けられるかどうかが、タッチタイピングを マスターできるかどうかの分岐点になります。  これらに加えて、さらに重要な留意点として、毎日一定時間の練習を継続することが挙 げられます。通常、正しい順序で練習を行えば、1時間程度で指に一通りのキーの位置を 覚え込ませることができます。しかしながら、練習の間隔を空けてしまうと、せっかく覚 えたキーの位置を指は忘れてしまいます。ですから、「毎日少しずつ」を継続することこ そが、タッチタイピングをマスターするうえではもっとも肝要だと言えます。また、練習 を始めたばかりの段階では、あらかた指にキーの位置を覚え込ませることができたとして も、タイピングには大きな緊張を要し、非常に疲れます。思わず目視タイピングに戻りた くなってしまう瞬間が多々あることでしょう。しかしこの段階では、まだタッチタイピン グのありがたみを半分も享受していません。正しい練習をさらに継続すれば、指は1文字 単位ではなく単語単位で、自然に(つまりはラクに)動くようになってきます。このとき 初めて、タッチタイピングのすべてのありがたみを享受したことになります。逆に、せっ かく練習を開始しても、辛いからといって目視タイピングに戻ってしまうと、いつまでた っても先には進めません。したがって、練習を開始した当初の辛さや一時的な作業効率の 低下には目をつぶり、正しい指使いによる練習を継続する必要があります。そうすれば、 誰でも必ずタッチタイピングをマスターし、その恩恵にあずかることが可能です。  なお、タイピングの正しい練習方法に関しては、http://www.crew.sfc.keio.ac.jp/pro jects/typingexercise/ に解説があります。